イラストSS

「原稿終了――！　入稿だあ！」
　うんと伸びをしてから大の字で転がった雪風は自室に飛び込むように帰ってきた。
　その背中に着いて遣ってきたリディアは「雪風さん、お願いは覚えていますか？」と問うた。
　女性慣れして居ない彼は極端に男女の関わり方を確かめる節がある。聞けば実姉の関係だとは言うけれど。
（少し位、こっちを見てくれたって）
　拗ねたリディアのお願いに「覚えてるよぉ」と雪風がどことなく困ったような顔をした。

　――雪風さんにケーキを『あーん』って食べさせてもらいたいんです。

　そんなお願いをしてからリディアはその時を待ってきた。ケーキを購入して彼の家に来たのは流石に人目が気になったからだ。
「そんじゃ、やりますか。あ、写真撮っても良い？」
「えっ！？」
「し、資料ッス、うす、駄目すか……」
　辿々しく問うた雪風に「いいですけど」とリディアは少しだけ声音に照れを滲ませた。
　カメラをセッティングして「よし」と雪風はケーキを前にフォークを手にする。
「あーん」
　取材や資料となればやる気になるのだから酷い人。そんなことを思いながら口を『あんぐり』と開けて気付いた。
（雪風さんにすごく顔見られてる！　特に口！　なんか顔が熱くなるー？！
　あまり口大きくあけたらはしたないかしら？　わーん、自分からお願いしたのになんだかすごく恥ずかしいんですけどー！！）
　女の子の途惑いに気付かぬ彼は「美味しい？」なんて嬉しそうに聞くのだ。
　本当に、ずるいひと！


　＊SS担当：夏あかね