イラストSS

　シャイネン・ナハト。それは特別な日。
　夜は最も雰囲気が高まる時間帯。
　伏見　行人とラクロス・サン・アントワーヌの二人はこれまでに幾つもの思い出を分け合ってきた仲だ。そろそろ一つの節目を迎える為にもこの時間帯は大歓迎。
　アントワーヌの腰を抱き寄せ、伏見の腕の中に収まる彼女の体。ほんの少し体を傾けて顔を近づける。そんな伏見の唇を、彼女の人差し指が止めるようにして触れる。
　おや、と思うも顔には出さない。彼女の考えている事などわかるから。
　伏見の肩に右手を置き、近付いてこようとする唇に、「やっぱり」と予想が当たる。意趣返しに彼の人差し指がアントワーヌの唇を止めた。
　どちらも笑みは崩さない。譲り合わない。
　アントワーヌの笑みは不敵に。「欲しいなら言ってごらん？」と、そんな事を言いそうな顔で伏見を見つめる。
　伏見の笑みは余裕たっぷりに。その笑顔の下では、奇襲を仕掛けるか、正攻法で指を――なんて、そんな悪い考えを巡らせそうな気がしないでもない。
　互いに譲らぬこのシチュエーション。伏見が彼女を支える手と、彼女の倒れまいとする膂力のどちらが限界を迎えるのやら。
　輝かんばかりのこの夜だけが、その結末を知っていた。

　※SS担当：古里兎　握