イラストSS

　あの頃躍起になって描いていた天使の像は、今ではもう躍起になって見つめるほどの輝きは無いようにも思われた。
　否、それはきっと違うだろう。輝いて見えるものは、今ではこんなにも近くにある。ましろいカンバスに鉛筆が動いていくのを不思議そうに眺めたアネモネの表情は実のところ、カンバスよりもベルナルドの顔を見るほうが楽し気に見えた。
　さらり、と揺れた髪が集中力を搔き乱す。甘い花の香り。彼女を象徴するような、甘ったるくて、有毒で、それでいて寂しげで。きっともう、この香り無しでは息をすることさえできない。
　間合いに入られることがあんなに恐ろしく思っていたはずなのに、今ではこんなにも愛おしい。
「もう天使の像は描かないの？」
「必要ねぇだろ。俺の側にはお前がいるんだから」
　鳥籠は案外、小さかったのかもしれない。刹那の輝きは今ここに舞い降りた。
　きっと失われることのない永遠の輝き。永劫の煌めき。
　取り戻されたのはきっと、いつかに失われていたはずだった愛の輪郭。
　小さな天使はもうきっと、これからも失われることのない幸せの肖像。
　だって、この温もりのかたちはこんなにも鮮明なのだから。

※SS担当：染