イラストSS

　好きだよ。
　そう伝えても彼女はぱあと明るい笑みで「わたくしもですわ」と答えるのだ。
　伝わらない距離、伝わって欲しい熱。それから、友人が少ない貴族の重鎮である彼女の『友人』が減ってしまうかもしれないという不安げな視線。
　ティアはカヌレをじっと見た。
　舞踏会の護衛を頼まれたときには「一緒に踊ってくれる？」と冗談めかして言ったけれど、踊ってみれば、ふわりふわり、くるりくるり、近付く距離がもどかしい。
　その美しい黒のドレスを身に纏った令嬢を此の儘攫って終うことが出来れば良いのに――鮮やかな海色の髪が彼女が護り、大切にしている海洋王国を思い出させて已まないのだ。
「カヌレ、好きだよ」
「わたくしも好きですわ。ふふ、嬉しい」
　お友達同士、戯れ事のように重ねた言葉に蓋を出来やしないけれど。
　せめて、瞳だけは本音を伝えさせていて。

　――本当に好きだよ。これは、友情じゃなくって恋情なんだ。だって、カヌレのことをめちゃくちゃにしたいんだから。

　そんなことを言えば彼女はどんな顔をするだろう？
　ティアは踊るカヌレを見詰めながらその事ばかりを考えて居た。


　＊SS担当：夏あかね