PandoraPartyProject

イラスト詳細

"こちら"へおいで

作者
人物 黄鐘 呂色
イラスト種別 シングルピンナップクリスマス2022(サイズアップ)
納品日 2022年12月24日

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イラストSS

 しゃく、しゃくり、踏み締める道。転んでしまわぬように一歩ずつ。それでもやや足早なのは寒さに背を押されるせいか、雪に染まった街にふたり分の跡が刻まれていく。
「……ああ、また降ってきたね」
 見上げた空から舞い降りる真白い綿に目を細めれば、雪雲よりも軽い吐息が昇って消えた。
 呂色は徐ろに振り返る。あたたかい家々の灯りがなければ、黒髪と浅黒い肌、着流しまでもが深く暗い色の彼は、僅かでも目を離した途端にさらりと闇へと溶け込みそうだ。
「お入んなさい」
 灰色がかった夜に番傘が咲いた。表情の下半分は面の内に、誘う声は冗談めかして真意を秘め隠す。
「冷えてきたから、此方でもいいけど」
 肩から流した羽織を掲げ、空けた隙間はひとり分。無自覚、はたまた謀か。柔らかく綻ぶ椿花の瞳は『控えめ』で『謙虚』、されど雄弁に。この見せない笑みは特別だけに向けられるものだと伝えていた。

 しゃく、しゃくり、静謐な世界に重なり響く軌跡の音。ふたつの足跡は寄り添い、続いていく。いずれは降り積もった雪に埋まってしまうのだろうけれど、それまでは——他の何人も立ち入れぬ傘の下、交わした言葉は彼らだけのものだった。

 ※SS担当者:氷雀

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