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クリスマスパーティ!sideB
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喫茶『ノワール』の店主、プラリネは少々困っていた。今、運んでいるマカロンを届けなければならないのに、ある人物に引き留められているのだ。
「君、可愛いね。パーティの後ヒマ? 俺とどこか遊びに行かね?」
「お、お誘いはうれしいけどぉ……ボク、この後も忙しくて……」
善気のナンパを断るプラリネ。しかし、彼も引き下がらない。彼の双子の兄である良平が苦言を呈するが、聞いてくれない。しかし、いつまでも彼に引き留められている訳にはいかない。
「あ、あの、まだお料理運ばないといけないので、失礼しますぅ……!」
パタパタ、とマカロンを所望した帝人の元へ向かうと、善気は「あーあ、」と特に残念がることもなくあっさり諦めた。彼女が忙しい、というのは事実だろう。現に、チームメイトの漁も何やら料理を運んでいた。
「ホレ、追加の料理を持ってきたぜ! どんどん食えよ!」
そう言って運ばれてきたのは唐揚げだ。大皿に沢山盛られた唐揚げをテーブルに置くと、拳修は早速自分の取り皿に唐揚げを乗せた。しかし、ある物が足りない。拳修は漁に尋ねる。
「オイ漁、レモンかマヨネーズはねぇのかよ」
「レモンなら、こちらにありますよ」
近くにいた狂実が、拳修の取り皿にレモンを乗せる。「おお、ありがとな」と礼を言う拳修に対し、「自分で持ってこいよ……」と漁は溜息を吐いた。しかし、狂実は全く気にしていない様子で、今は光のために唐揚げを取り分けていた。
「はい、どうぞ。他に欲しいのがあったら、言ってくださいね」
「ありがとう! 狂実ちゃんも、取りたい料理があったら言ってね!」
「はい。ありがとうございます」
取り分けた唐揚げを光に渡す。互いに礼を言うと、取り分けられた料理を美味しく頂いていた。
美味しい物を食べて、仲間たちと過ごす賑やかなクリスマスパーティ。こちらの世界でも楽しめるとは思っていなかった。憐の手には練達製のスマートフォン。写真も動画もしっかりと残せる仕様になっている。兄妹が仲良くしている場面、その様子を離れた場所から観察する様子、ナンパしたり止めたり、一緒に料理を楽しみながら和気藹々と会話をする場面。そんな細やかな場面を、切り取って残す。いつか元の世界に戻った時に、こんなことがあったね、と思い返す時のために。
「ふふ……これはまた、いい思い出が増えちゃったねー」
画面を見ながら憐は微笑んだ。
美味しい食事も歓談も、なんならちょっとしたゲームも楽しんで、すっかり夜も更けてきた頃。そういえば、あの掛け声を言っていなかったな、と葵が呟く。すると、いつの間にか近くにいた空太郎が「葵チャンったら、おっちょこちょいデスね~」と返しながら、グラスを片手に「皆サーン!」と声を上げる。
「乾杯の時に葵チャンが肝心なこと言い忘れてたから、もう一回、グラスを持ってもらって良いデスか?」
各々「今更かよ~」なんて葵に野次を飛ばしつつも、皆グラスを手に取った。
「それじゃあ、メリー――」
「いーや違うっスよ、ロギ」
空太郎の言葉に、葵が待ったをかける。確かに、その言葉は元の世界では常套句だ。だが、ここは元居た世界ではない。この混沌世界のクリスマス――シャイネン・ナハトの日には、別の常套句がある。
「ここじゃ、こういう風に言うんだよ」
にやり、と笑った葵は、グラスを掲げながら率先して告げた。
「輝かんばかりの、この夜に!」
その言葉に続けるように、サッカー部のメンバーたちもグラスを掲げて続けた。
――輝かんばかりの、この夜に!
※SS担当者:萩野千鳥