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強虫世界君
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● I never found a companion that was so companionable as solitude.
『いらっしゃいませー!』と聲を張り上げた店員の貌が途端に曇って、席へと案内する其の背中などに至っては憐憫の様なものが滲んでいた。
『コチラ、オヒヤトメニューニナリマース……オシボリドーゾ……』
最初の威勢は何処へやら、覇気無くとぼとぼと去って行く青年を世界は胡乱を含んだ眼差しで追ったが、其の真意に気付くのは其れから数分後の事である。
「……? 何なんだ全く。取り敢えずは珈琲でも……後は、…………」
其れが重ねられたメニュー表の一番下に座していたのは、『其処に到達する前に注文が決まってくれれば』という店員の切なる祈りであったのだろう。然し残念な事に世界はといえば一旦全てのメニューに目を通すタイプだったが故の悲劇が起こってしまった。
「カップル限定Menu LOVEアベックマンマミーヤメリクリセット」
「…………カップル限定Menu LOVEアベックマンマミーヤメリクリセット――か……そっか……」
復唱し、目の前に踊る文字が事実であると認識した彼は徐にトレンチコートを脱ぎ捨て店内を闊歩する。
『ぼっち・ざ・わーるど』と書かれたクソダサTシャツの袖を破り捨ててタンクトップにでもしてくれ様かとすら想う怒りに如何にかなりそうだった――が。
小さな拍手が湧くと同時に、物申した気な『おひとりさま』の老若男女が席を立ち世界に続いた。
拍手は次第に大きく確かなリズムになり、彼等は腕を組んでステップを踏み――亦、ひとりひとりと席に戻って行く。
テーブルに置き去りにしていたお絞りだけが、優しくぼっちの泪を拭い――温かく寄り添ってくれていたのであった。
※SS担当者:しらね葵