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ニルのしもふりによるおまけイラスト
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「ほうら、ニル。こっちこっち。『おいしい』モンでも探しに行こう」
手を引く芥子に引き摺られながらもニルは「はい」と返事をした。やってきたのは茶屋だった。
「ここが芥子様の『おいしい』ですか?」
「そう。ここがね。あっしのお気に入りでさあ。特にお汁粉が美味しいんだよね」
他にもオススメはあるけどねと笑った芥子にニルはぱちくりと瞬いてから「おしるこ」と呟いた。
雪化粧の豊穣郷、寒さはそれなりで芥子は白い息を吐いている。寒いですかと問えば「これから暖かくなるから」と笑うのだ。
何処か戯けた様子の芥子の言う『おいしい』は『あったかい』のだという。
寒さを感じることもなければ食事を必要としないニルにとっては寒さをダイレクトに感じ、四季を味わい『おいしい』をレクチャーしてくれる芥子は素晴らしい存在だ。
けれど――
(……年末は皆忙しいって聞いた事があります。芥子様はお忙しくはないのでしょうか?)
練達ではナヴァンが忙しなく走り回り年末進行と叫んでいた。豊穣郷でも年の瀬が迫れば其れは其れは忙しそうなのだ。
特に、芥子の生家である『國崎家』は大蔵省に役人を代々輩出する家門であり、どの省庁よりも忙しいと耳にした事がある。
「あの、芥子様……無理はなさってませんか?」
「あっしが? いーや、別――」
別に何もないと言い掛けた芥子の上に影が被さった。「芥子」と両腕を組み苛立った様子で姿を見せたのは花菱である。
「おっとぉ」
「おっとぉ、ではないだろうが。芥子、この忙しい時に何をしている?
散々探し回っただろうが! 忙しい事を知っていて! 何を! している!」
「茶ァ」
「茶ァ!?」
こくりと頷く芥子はそそくさと団子を手にしてから花菱の口に突っ込んだ。ふもふもと怒りながらも頬張っている花菱に芥子は頬杖を付いてにまりと笑う。
「美味しいからねえ」
「此処の団子は確かに美味い。おはぎがニルにオススメしたいのだがもう食べた――か、ちがーーーう!」
怒ることは矢張り忘れなかった。ニルはぱちくりと瞬きながら憤慨する花菱を見ている。これも本当に慣れてしまった。
いつだってマイペースの芥子にそれを追い回す花菱。そんな國崎家の長子と末子のやりとりはある意味で大蔵省風物詩なのだ。
「仕事だ、芥子!」
「ええー……此れ食べてからでよくない~?」
「ないっ!」
「勿体ないよ」
「……ぐ……」
ならばそれを食べてからと隣に腰掛けた花菱がついでのようにおはぎを注文したのは――まあ、芥子の策略通りなのだろう。
*SS担当者:夏あかね