イラストSS

●A woman is like a tea bag. You never know how strong it is until it’s in hot water.
　椿油の染み込んだつげ櫛で丹念に梳かした長い、長い射干玉の髪は半ばから緩い三つ編みに。
　殆ど着た事の無いトッパー・コートも、大人ぶったロングスカートも、何もかも全ては聖夜――シャイネンナハトの此の日の為。
　似合っているか不安で、其れに歩き慣れない背伸びしたヒールパンプスは彼への淡い想いの分の距離を縮めてはくれたけど、彼と云ったら普段より彼女の頭が高い位置にあるなんて些少な問題なのだろう。
　屹度、己は今此の場に居る誰よりも、美しくて可愛いとすら思うし、そんな女を横に連れて歩ける誉れに鼻高々にしてくれたって構わないのに、寧ろそうすべきなのに、目的地に辿り着くやいなや、子供の様に眸を輝かせた支佐手の口から転び出たのは。

「わしは市を見て回って来るけえ、また後での！」

　あっけらかん、女――五十琴姫を置いて颯爽と消えようという算段である。

「ちょ、ちょ、ちょ、待たれい！　これ！　これ！　待つのじゃ！！」
「嗚呼、すみません、すみません、待ち合わせの場所を決めるべきだった。ではあの像の下にて！」
「ンンンーーー！　そうじゃ無いんじゃが！？」
「まあまあ、大丈夫。直ぐ戻って来んからに」
「何が如何『大丈夫』なのじゃ……」

　往々に於いて単独行動が好きな男は多いものだ。単純に独りになりたかったり、或いは歩幅の違いだとか、理由は多岐に渡るが、もう憂いは無いとばかりに後ろ手を振り去り行く背中は一層清々しく凛々しさすら感じた。

「支佐！！！　そなたぁ！！！　そういうところじゃぞ！！！
　わしを置いて一人で市に行くやつがあるか！！ばかものぉ！　
　あっ、もう振り返りすらしないのじゃ！！！　歩くの早ぁ！！？
　くっ、何か『美味なでぃなー』と『びっぐなぷれぜんと』を寄越さんと赦さないのじゃーーー！！！」

　※SS担当者：しらね葵