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R.I.P.
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イラストSS
「それでは、参りましょう」
寛治に誘われてやってきたリーゼロッテは降り荒む雪を払うことは無かった。
――Christian Badinter
Gone for his Blue Rose.
「お風邪を召されますよ」
「……ええ」
何時もの嗜虐的な笑みは鳴りを潜めた。ただ、今の彼女の表情だけは寛治の胸の内に留めておこう。
好敵手に此度は賭ける言葉も用意できまい。彼女と彼との間に土足で踏み入るなど寛治には余程じゃないが出来やしなかった。
(何を考えていらっしゃったのか。
それは聞かない約束ですが……どうやらこの勝負は私の勝ち、だったのでしょうね)
素直な言葉を此処で零すとするならば彼女に『こんな顔』をさせたのだからある種で敗北したようなものではないか。
本当に最後まで狡い男だ。『全てを終らせる』為に、あんなにも鮮烈に刻みつけるだなんて。
遺された者の記憶にこびり付く。捨石になるような男では無かった筈なのに。
(この薔薇の香りは噎せ返る――華に魅入られたからこそ、男は馬鹿になれたのでしょう)
寛治はその場で立っている彼女に傘を差した。
「お風邪を召されますよ」
もう一度繰返す。僅かに傾けた傘に入ってからリーゼロッテは「ええ」と同じように返事をするだけだった。
*SS担当:夏あかね