イラストSS

　――今は我（わたし）だけを見て下さいませ、お嬢様。

　ぎしりと軋んだソファーに彼女が転がっている。
　揃いの黒いドレスを身に纏った『ブラックサンタクロース』。彼女の美しい銀の髪には黒が映える。
　だなんて、そんなことを考えて居る場合じゃない。
　その両腕の下に華奢な彼女の体が収まっていた。
「お嬢様」
　震える声音で呼び掛けるレジーナをまじまじと見上げてからリーゼロッテは「レジーナさん？」と声を掛けた。
「あ、わ、我（わたし）は本気です、お嬢様」
　偶然のこと。たったそれだけ。それでも運命の女神は揶揄い半分でレジーナに試練を与えてきたのだ。
　リーゼロッテを押し倒したのはただの偶然であっても、此処から先の言葉選びの一つや二つ、それで未来が変わってしまう気がしてならない。
　ごくりと唾を飲み干してからレジーナは「リーゼロッテお嬢様」と呼び掛けた。
「今は、どこも見ないで」
「……」
「余所見、しないでください。お嬢様」
　緊張に震える。幼子が甘えるようにその胸に擦り寄ることも出来ない。
　レジーナを見上げたリーゼロッテも幼い子供の様に唖然としていただろうか。
「……お嬢様」
　もう一度呼び掛けてからレジーナは囁いた。

　今だけは。
　今だけでいいから――



　＊SS担当：夏あかね