イラスト詳細
オリーブのしずくのボランティア
イラストSS
「輝かんばかりのこの夜に……!」
「はーい、良けりゃぁシュトーレンどうぞー」
慈善団体『オリーブのしずく』の活動に携わる零・K・メルヴィルとフラーゴラ・トラモント。2人は子どもたちのために、シュトーレンという菓子パンを配達するボランティアに励んでいた。
スラムに隣接する街の広場にたむろしていた子どもたちは、シュトーレンを差し出されて笑顔を見せる。
「わあ、お菓子だ!」
「ありがとう!」
レイヴン・ミスト・ポルードイは建物の壁に寄りかかり、その様子を遠巻きに眺めている。貴族の家柄でもあるレイヴンは、オリーブのしずくのパトロンでもある。
どこかニヒルな印象のあるレイヴンだが、喜ぶ子どもたちの反応を眺める表情は満足そうだった。レイヴンはパトロンとして、2人の活動を見守ることに徹していたが、フラーゴラから不意に声を掛けられる。
「レイヴンさんもおいでよお……! シュトーレン、一緒に食べよう……!」
フラーゴラたちは、子どもたちと一緒にシュトーレンをつまみ始めていた。
「いや、ワタシは資金を出してるだけだし、見守るだけで十分──」
そう言いかけたレイヴンだったが、フラーゴラはレイヴンの返事を待たずにその手を引いていく。フラーゴラの誘いを無碍にすることもためらわれ、レイヴンはひとまずその場の流れに逆らうことはやめた。
シュトーレン作りに励んできた零は、レイヴンにもそのひと切れを差し出しながら言った。
「今年のは、ナッツとドライフルーツぎっしりの自信作だよ」
零の言葉通り、シュトーレンを味わう子どもたちは、口々にそのおいしさを褒め称える。
レイヴンや零たちと比べれば、どこかみすぼらしい姿の複数の子どもたち。無邪気にシュトーレンを頬張るその姿を前にして、レイヴンは零からシュトーレンを受け取ろうとしなかった。
「これは子どもたちに分け与えるものだろう」
レイヴンの一言を聞いて、すでにひと切れを食べ終えようとしていたフラーゴラは気まずそうな表情を見せた。しかし──。
「シュトーレンは、まだまだいっぱいあるから!」
零は半ば強引にレイヴンの手にシュトーレンを押し付ける。
「これはレイヴンの分な。出資した分は受け取ってもらわないと困るよ」
零はレイヴンに対し、不満気な表情をわざとしらしく作った。即座に穏やかそうな糸目の表情に戻った零は、子どもたちに向き直ると、
「家族や他の友達にも持っていってあげな。遠慮はいらないよー」
零は大量に用意してきたシュトーレンを、子どもたちにどんどん配っていく。
零に促され、レイヴンもシュトーレンを口にする。バターと粉砂糖たっぷりの生地に、洋酒に漬け込まれたドライフルーツとナッツがよく馴染み、熟成されたような味わい。子どもたちが笑顔になるのも納得のシュトーレンを、レイヴンも堪能した。
※SS担当者:夏雨