イラストSS

「リズ」
　呼び掛ける寛治にリーゼロッテは「どういたしましたの？」と問うた。
　肌触りの良いもこもことしたルームウェアに身を包んでいたリーゼロッテはワイングラスを傾ける。
「いいや」
「あら、声を掛けたのに何も言わないだなんて。何か言うことがあったのではなくて？」
　何処か子供っぽい仕草と表情で詰め寄るリーゼロッテに寛治は小さく笑った。
　普段ならばかっちりと整えている髪も、その鋭い視線を遮っている眼鏡もない。後は眠りに就くだけだと愛しい蒼薔薇へと声を掛けた時に「眠るだなんてつまらないこと」と我が儘を言ったのは彼女の方だ。
「このワインは口に合うかと気になって」
「あら、貴方が一番に良いものを選び抜いたのでは無くって？
　それに、ワインによく合うチーズまで用意してプレゼンテーションしたんですもの、私の口に合わないものを『用意する訳がないでしょう』？」
「勿論」
　熟知していると揶揄うように笑えば「その顔」とリーゼロッテが何処かむくれた様子で言った。
　飄々とした彼にしてやられている気がしてならないのだ。このシャイネンナハトは何時もと少し違う。
　主人と従者という関係性を一つ飛び越えた穏やかな時間。まるで子供扱いをしているようだと拗ねた彼女の髪を掬い上げてから口付けた。
「お気に召したのであれば一番ですよ、マイレディ――」
　何時ものように囁けば彼女は「悪くはありませんわ」とだけ言ってから外方を向いた。


　＊SS担当：夏あかね