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エクシルの白狼印けいによる関係者3人+PCピンナップクリスマス2022
イラストSS
これは――存在しない、紛い物の記録。
アクセル・ソート・エクシルの両親が“死んでいなかったなら”を辿った、電脳の中の物語。
――わあーッ、美味しそう!
弟が……ビッキーが嬉しそうに声を上げる。
父のカルヴァンがつまみ食いするなよ、と言って笑う。在りし日と変わらぬ光景。変わっている事と言えば、現実には生まれて来なかった弟、ビッキーが生まれて成長しているという事。
アクセルは伸ばし掛けた手を引っ込めて、判ったよ、と父に拗ねたように言う。
カルヴァンは其れがおかしかったのか、はははと声を上げて笑って。
――心配しなくても、お前の分を取ったりしないさ。ちゃんと四人で分け合うんだ、文句は言いっこなしだぞ
――減らしたりしない?
――するもんか。母さんが取り分けてくれるから、みんな平等だ。……図体に関わらずな
俺も食べたいよと言いたげに、カルヴァンが腹を撫でる。
とはいいつつも、きっと子どもたちには多めに切り分けてくれるだろう。カルヴァンの知る妻、サリナとはそういう優しい妻だ。だが其れは、父の分が少なくなるという事なので……ちょっぴりお腹が寂しいが、そんな事を言っていては大人としての沽券に関わる。
――そうよ、勿論! 母さんが取り分けるんだからちゃあんとみんな平等よ。ほら! これは食後のアップルパイ
サリナが台所からやってくる。母はアップルパイが得意で――誰もがきっと聖夜のご馳走になる、と期待していた。
林檎の甘酸っぱい香りが豊潤に暖かな部屋を満たす。わあ、と声を上げたのは、誰より育ちざかりのビッキーだった。
――凄く美味しそう!
――美味しそう、じゃなくて美味しいのよ
――そうだった、美味しい! これは食後?
――そう。まずは目の前の料理を食べてから
暖かな家族の風景。
息子二人はサリナが席に着くや否や、カルヴァンの方へと視線を向ける。「いただきますはまだ?」の視線だ。
育ち盛り二人の息子に苦笑いしながら、カルヴァンは、じゃあ、と物々しく咳をする。
――光り輝かんばかりのこの夜に
――この夜に!
――いただきます!
――いただきまーす!
漸く暖かな料理を食べられる。
まるで生き急ぐかのように食べ始める二人を見て、サリナとカルヴァンはそっと視線を交わし合い……其の幸せを感じて、穏やかに笑うのだった。
※SS担当者:奇古譚