イラストSS

「お父さん、パパさん！　今度はあっちを見てもいい？」
「もちろんいいよぉ」
「ふふ……転ばない様に気をつけてね、ラス」

　行き交う人々で賑わう広場──その日はそこでシャイネン・ナハトに因んだ露店が並び、異世界の言葉で言う『クリスマスマーケット』の様相を呈していた。紫月と呼ばれるモノ、ヨタカ、ラスヴェートの一家は夜のご馳走用の食材の買い出しに出かけた帰りにこのマーケットを訪れ楽しんでいるところだった。大人2人の腕には買い足した食料、そしてラスヴェートの腕の中には──

「えへへ……ふわふわ……可愛い。お父さん、パパさん、ありがとう」
「気に入ってくれてよかった」
「新しいお友達……大事にしてあげて？」
「うん！」

　ぎゅっとラスヴェートが抱き締めたのはふわふわで、もこもこで、愛らしい白のテディベア。今年も1年いいコに……ではなく、健やかに頑張って過ごしてくれたラスヴェートに、2人の父が贈ったシャイネン・ナハトのプレゼントだ。ラスヴェートが新しいお友達を連れてマーケットの露店を片っ端から見て回っていると、露店の主人達は皆一様に笑顔を浮かべて彼を見守っていた。それを父達はグリューワインを片手に微笑ましそうに後ろから追いかける。

「わ、いい匂い……何のお店だろう……」
「輝かんばかりの、この夜に！　ホット・ラムチョコレートだよ、坊や。うちはアルコールはしっかりと飛ばしてから作るから、坊やでも安心して飲める。どうだい？」
「チョコレート…！」

　ラスヴェートはお利口さんで、お父さんやパパさんの料理が大好きだからちゃんと屋台の食べ物から漂ういい香りの誘惑も我慢できる。しかし、我慢できるとは言っても屋台のそこかしこからいい匂いは漂ってくるわけで、しかもおすすめされたホット・ラムチョコレートの屋台からは格別にいい匂いがラスヴェートの鼻を擽っていた。甘くカカオの香りが芳醇なチョコレートに、アルコールをしっかり飛ばしたラム酒の大人な香りとコクがプラスされたそれはきっと口の中で熱々で、だけど至福の味を与えてくれるのだろう。我慢、我慢……！　と思って新しいお友達を抱きしめていても、ラスヴェートはそこから中々動けない。

「……ねえ、小鳥？」
「……俺たちがグリューワイン飲んでるのに……ラスに禁止しちゃうのは……ずるいよね？」
「寒いもんね？」
「ちょっと温まるくらいなら……ね？」

　顔を見合わせて番達は幸福に微笑むと、可愛い息子の傍へ財布を持って近づくのだった。

　※SS担当者：和了