イラストSS

●I hope to see you again, young Lady & Boy, In the pale light of the moonlight.
　月は射そそぎ、屋根の上を奔るふたりの影と、其れを追う者達の影を長く伸ばし手遊んでいる。
　えっちらおっちらと屋根に上がろうとする凡庸な悪党共を尻目に、盗品をたんまりと詰めた白麻の袋を担ぎ、しなやかな四肢を持つ狐が高く跳び。其の後を帽子を目深に被った小さな鬼が跳ねた。
　半刻程続いた逃走劇も、鍛え抜かれた特異運命座標点＜イレギュラーズ＞であるふたりには敵わず、叫ぶ聲も絶え絶えの者、足を踏み外す者、蹴躓く者。
「成ってないですね、スリルもちっともありやしないじゃあないですか」
「ほんと、ほんと！　やぁい、もっと骨のある人は居ないのかしら？」
　こっちよこっち、なあんてまん丸に膨れた袋を空高く月と重なる様に掲げて、少し弾む息で挑発して見せるも最早誰しもが諦めた様で、今度はきゐこの頬がぷっくりと膨れ、『なあんだ』と萎れる彼女に、『此れからが本番ですよ』、とアンジェリカが囁いた。
「そう云えば！　訊いてなかったけれど、此れ如何するの？」
「弱きを助け強きを挫く、とでも申しましょうか。先ずは寒さで凍えている人々に十分薪を与え」
「わあわあ！　悪だねえ！　争いの火種って奴だね！」

「食事を摂らせて肥やし」
「ふむふむ」

「水責めにします」
「最高じゃーん！　あ、彼処に孤児院があるよ！　程良く貧しそうな！」
「人は贅を尽くせば味を占めてしまうので程々に」
「オッケー、じゃあいっせーのせで降りようか、台詞とかは――……」
「お誂え向きなのがあるのでしょう？」
「嗚呼そうだね、じゃあ、せーの！！」

「輝かんばかりの此の夜に！」

　※SS担当者：しらね葵