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兄上だけがいない街
兄上だけがいない街
イラストSS
はらはらと舞い落ちる淡雪は、地に落ちるや否や溶けていく。淡々と繰り返される自然現象を眺めながら、彼は白い息を吐いた。
煌びやかな城の外に出てしまえば、冷たい夜が広がっている。雪は静やかに冥夜の肩を濡らしていく。若い仕事仲間たちはホワイトクリスマスの訪れを喜んでいたが、冥夜の心情はもっと落ち着き払ったものだった。
ふと、彼はある物を懐から取り出す。揺れる白花が彼の目に映った。クチナシの花が添えられたネクタイピン。元の持ち主が身につけることは、もう二度と叶わない。
……あの人が居なくなって、初めての冬だった。
「兄上、今年も寒い冬が訪れそうです」
誰にともなく彼は呟いた。もしも、兄との再開を果たしていなかったら。長い"冬"の終わりを告げることができなかったら。ずっとずっと、彼は独りで凍えたまま、取り残されていたのだろうか。
冥夜は晒される寒さから守るように、小さなネクタイピンを掌で包み込んだ。
――冥夜。
ふと、誰かの声が聞こえた気がして振り返る。それはきっと、いつかと同じような調子で……。
しかし、背後にはただ夜の街が佇んでいるのみだった。
※SS担当者:梢