イラストSS

「ほらほら、こっちだよ」
　手を引いてなじみは走って行く。この日のためにと購入したセーターは寒さ対策もばっちりだ。
　四つ葉のクローバーを思わせるピアスを揺らがせて、なじみはイルミネーションに向かって走り行く。
　光の海は眩くて、今日の目的は思い切り達成できそうだ。

　――クリスマスはイルミネーションを見たいから、いいよね？

　そんな誘いを送ったのは当日のことだった。何をしようとだらだらと考えて、思い浮かばなければ普通にショッピングをして適当に購入した品を手に友人宅に押し掛ける。
　そんな日常を穏やかに過ごしていられるのが『当たり前』なのだ。
　竜が襲来する事も、竜と戦うことも、モンスターを見ることもない。勉強して、街で歩いて、メッセージアプリと睨めっこして。
　それが『再現性東京（ここ）』の日常だった筈なのだ。
「どうかしたの？」
　きょとんとしたなじみは顔を覗き込む。
「困った事でもあった？」

　……困ってなんか居ないのだ。ただ、ずっと続いてくれれば良いのにと思ってしまっただけ。
　ほら、こうやって手を繋いで居るけれど。
　手を離してしまったら。
　きっと。

　――君は居なくなって仕舞うんだ。


　＊SS担当：夏あかね