イラスト詳細
春告げ鳥を待つ/猫星一之進IL
春告げ鳥を待つ/猫星一之進IL
イラストSS
とある冬の日だった。
「お、咲き始めたか」
寒々しい枝ばかりの中に、桃色の花弁がぽつぽつと。
十夜 縁(p3p000099)はソレに気づくと、縁側から外へ降り立った。
「まだまだ寒いんだがな……おっさんにはこたえるぜ」
誰に告げるともなしに独りごち、冬物の羽織をしっかりと着込む。煙管を片手に煙をくゆらせれば、薄氷のように透き通った空へ立ち上った煙は空気に溶けた。
翡翠色の瞳を細め、縁はそれを眺める。おもむろに歩み出せば、着物の隙間から素肌を冷たい空気が撫でた。
陽の光は差しているが、ピンと張るような空気に暖かさは感じられない。縁側の下や庭には雪も残っている。
けれど、自然は既に次の季節への準備を始めていた。その変化は些細なもので、しかし明確に分かるもの。
ゆっくりと庭を歩む縁。愛用の煙管から昇る煙がその軌跡を残して、さらに空へ。
梅が咲いた。次は桜。その頃には寒さも和らぐだろう。
梅の木を見上げれば、ちょうど緑色の鳥が枝に留まる。かくりと首を傾げるその鳥を見て、縁は仄かに笑みを浮かべた。
とある冬の終わり。些細な変化を感じながら、いつも通りのらりくらりと日々を過ごして。
春は、もうすぐそこに。