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リースリット・エウリア・ファーレルの黒猫によるシングルピンナップクリスマス2021
リースリット・エウリア・ファーレルの黒猫によるシングルピンナップクリスマス2021
イラストSS
彼女はさながら、シャイネンナハトの奇跡であった。
煌びやかなパーティーホールの片隅で、男はひどくみじめだった。自分が世界で一番憐れだとすら思うほどに。
一年を通し特にいいこともなく、行かなければ家名を汚すからと出席だけしたパーティーで居場所をなくしていたのである。
彼が適当に時間を潰して帰ってしまおうかと考えた、その時。
ザワッと周囲に声があがった。
固まっていた人々が見えない力で押し返されるかのように左右に分かれ、その中心を歩く女性がいる。
美しい金髪に花の髪飾りをつけ、赤を主体にした黒レースのドレスで現れた彼女は一種特別な空気を纏っていた。
その異質さは嫌なものではなく、むしろよどんだ部屋にすぅっと窓から涼しげな花の香りが舞い込むような、思わずうっとりとしてしまうような雰囲気だ。
それゆえか、周りの男たちは近づくことも躊躇し、女達に至っては見劣りせぬようにと距離をとる始末。
「……」
女性が、こちらを見てフッと笑った。……ように見えた。
勇気を出すべきだろうか。
そう考えていると、女性は数歩近づき、指をぴくりと動かす。
気付けば、優雅なワルツミュージックが演奏されていた。
社交の場で女性から誘うことはありえない。彼は勇気を出し、『ご一緒にいかがですか』と声をかけてみる。
女性は――そっと手を出し、笑顔を浮かべた。
それはこの一年……あるいは人生の中に舞い降りた、奇跡だったのだろう。
担当GM:黒筆墨汁