イラスト詳細
あまくて、おいしくて、やさしい
あまくて、おいしくて、やさしい
イラストSS
『坊や、親御さんは?』
『逸れてしまったのかしら?』
雪の降る街をとぼとぼと歩いていたミラは優しそうな老夫婦に声をかけられた。聖夜の中一人で歩く子どもを見て迷子だと思ったらしい。
『おやご、さん?』
『ああ、お父さんとお母さんのことだよ。ご一緒じゃないのかい?』
『みら、おとうさんと、おかあさん、しらないです』
あんまりにも何でもない風にミラが言うものだから老夫婦は困った様に顔を見合わせ、やがて何か話していた老夫婦は屈んでミラに視線を合わせる。
『じゃあ、今夜はうちにいらっしゃいな』
『美味しいケーキもあるよ』
『けーき?』
●
「あー……んぐっ、おいしい、です!」
皿の上に取り分けたショートケーキは崩れてしまい、溢れた生クリームが机とミラの頬を汚している。そんなことはお構いなしに、またひとくち。またひとくちと、ミラは口を開けてショートケーキを食べた。その様子を老夫婦が目を細めて微笑ましそうに眺めていた。
「どう? 美味しい?」
「ゆっくり食べていいからね」
暖炉の火が暖かくて、照明で明るい部屋の中で、老夫婦の笑顔に見守られて食べたケーキは。
「ふわふわしていて、あまくて、とってもやさしいあじ、でした」
※SS担当者:白