イラストSS

「おとうさま」
　呼びかける無幻の声音に賀澄は穏やかに「ああ、待っていたぞ」と微笑んだ。
　本来の親子ではない。血の繋がりも存在していない二人ではあるが、賀澄は彼女を娘のように慈しんだ。
　彼の元に導かれた『道具』を賀澄は本来の名を教えて欲しいと微笑みかけたのだという。
「無幻、何処へ行きたい。父はお前が喜ぶ場所に案内したいと思っている」
「そう、ですね。お父様のお好きな場所を見て回りたいです。
　動乱の帝都も落ち着きました故、『彼』にも教えてあげたいと……」
「ああ、お前はあの者が好きだな。何処か、娘が嫁に行ってしまうような寂しさを感じるほどだ」
　揶揄うように笑った賀澄に「その様な事」と口にして無幻は頬を染めた。
　天真爛漫な笑みも、彼の傍で朗らかに会話をするのも、全てはR.O.Oの世界に生み出されたNPCであった『無幻』にはあり得なかった事なのかもしれない。
　神使達と関わりを持ち、そして何より、この世界で地よりも濃い親子関係を築けた。それ故に、今がある。
「ならば、土産を用意しようか。彼と、貴殿と一緒に食べるのが楽しみだ」
「それと……お父様の生誕の祝いもさせて下さいね」
　瞬いてから、賀澄は今一度嬉しそうに破顔した。


　＊SS担当：夏あかね