イラストSS

　ジャンプ――風を切る。
　雪原に駆ける二条の轍が途切れ、ソリが跳ねた。
　再びさくりと刻まれる、軽快な雪の音が心地よい。
　きらきらと舞う雪片も星空が包む――シャイネンナハト。
　たった一日だけ。地上から全ての争いが消えるとされる、聖なる夜である。

「とらぁ」「とら！」
「とらぁ」「とら！」

　マリアは頬にかかった雪を指で払うと、ついつい微笑んだ。
　目の前で元気いっぱいに躍動するとらぁ君と、隣ではしゃぐ白虎の姿が、可愛らしかったから。

　すやすや眠る良い子の夢を、大きな荷台へ目一杯に積み込んで。
　とらぁ君の引くソリが、聖なる夜を駆け抜ける。
　まずはグロワール・ドゥ・ティーグルの住人達へ。
　それから今度はお隣の教会領へ。
　頬に吹き付ける冷たさも、今日なら全然気にならない。
　それからそれから。
　まだまだ行ける、どんどん行こう。
　なぜならば、今夜の彼女はSt.マリア・レイシス（つよつよ猛虎）だから。

「とらぁ」「とら！」
「とらぁ」「とら！」
「私も虎！」「汝も虎！」
「とらぁ…………」
「どうして……」

　いよいよ、遠くに街の灯りが見えてきた。この丘を越えれば、次の地区に到着する。
　降り続いていた雪だったが、やんでくれて良かった。
「我のご加護かな！　お賽銭の効果が出たかも！？」
　白虎が胸を張るが。それは、うーん。どうだろう。
　はてさて、分かれ道。なだらかな右手側と――
「左の崖を飛んだら、きっとはやく到着（つく）よ！」
「そんな気がするね。どうだろう、とらぁ君、行けるかい？」
「とらぁ」

　そうと決まれば、冒険（チャレンジ）開始だ。
　ソリがふわりと舞い、浮遊感が身体中を包み込む。
　その瞬間、満点の星空が視界いっぱいに広がった。
　楽しげに「わっ」と声をあげ、満面の笑みを浮かべた白虎が手を振り――重い衝撃。着地成功！
　ソリの上でマリアと白虎が、手のひらを打ち合う。

「『すりりんぐ』だね。マリア！　これは、虎だよ！」
「VDMランドのアトラクションにも、採用できそうだね！」
「それは楽しみ！　今度は工事業者に中抜きされないといいね！」
「白虎君、急に生々しい話をするのはやめないか」
「とらぁ」
「どうして……」

「とらぁ」「とら！」
「とらぁ」「とら！」

　＊SS担当：pipi