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イラスト詳細

一夜限りの乾杯(yakiNAShU IL)

作者 yakiNAShU
人物 ヲルト・アドバライト
イラスト種別 関係者2人+PCピンナップクリスマス2021(サイズアップ)
納品日 2021年12月24日

3  

イラストSS

●No one will believe this of vast import to the nation.

 此の御人は、こんな風に笑うのだな、と云うのを初めて識ったのは何時だったかの同じ日の事。

 厳格な貴族の家に生まれ、何時も脣を引き結び、年頃の娘の様に笑う事も赦されず。色恋沙汰に現を抜かす事も、流行りのロマンス小説を読む事なども出来る訳がない。
 キツく締めたコルセットで背筋をしゃんと伸ばしていて、挙句の果てには難病を患っているものだから外の世界は毒其の物。
 奴隷の身としては破格の地位を与えてくれているアネットの事が、ヲルトの眸は何処かで少しだけ――憐れな様にも映っていた。『薬』である己が居なくなれば、死に至る其の軀は余りにも華奢だ。

 そんな彼女の白い頬に朱が差し、愉し気に頬を緩めて食事がてら会話を交わす事が叶う今日――シャイネンナハトと云う日は、人を優しくしてくれるのである。お祝い気分で何時もより少しだけ大きく、此の夜の晩餐の為にシェフが二日間赤ワインでじっくり煮込んだ牛ホホ肉を切り取って食べる事だって咎められない。

 リーモライザ家の当主クロードも、長く仕えた人間で無ければ判らない程に僅かだが薄らとだが口端が上がっていて、けれどふたりは何時も通り、やれ今年の領土の穀物の出来であるとか、騎士団の練度だとか、お金の事とか、民に不平不満は無いとか――
 そんな難しい仕事の話題――控えている者達がうっかり立った儘、寝そうになってしまう事しか話せずにいるのが何だかおかしくて――アネットの後ろに控えた儘少しだけ笑ってしまう。

 不器用、其れから吊り目がちな其の目元までふたりはそっくりで、ヲルトはそんなふたりの事が嫌いではなかった。
 そんな日を彩るデザートは、アネットの願いで何時も決まって『ウィークエンド』。大切な人と過ごす夜に食べる其の菓子は絶品で、爽やかなレモンと濃厚なバターが香り、刷毛で塗られたグラスは丁度外の雪景色の様。
 少し重くも感じるが、『名残惜しいから、成る可くゆっくり時間を掛けて頂けるものを』と彼女が頼み込んで作って貰っている事も、其の名の意味も、本来なら使用人に其の様な施しはご法度だと云うのに、多く焼いて貰った一つをヲルトに後で贈ってくれるのだって父にバレているとは娘は識らず。

 ――嗚呼、お父様。もう一度乾杯を強請っても?
 
 ――輝かんばかりの此の愛おしき夜に!


 ※SS担当者:しらね葵

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