イラストSS

　月夜の杯は遮那と妖刀廻姫の間で交わされる。
　ヒイズルの動乱を共に戦い抜いた戦友との祝杯。

「其方の働き、感謝しているぞ」
「光栄です」
　妖刀として遮那の元へやってきた廻姫は、常に彼の傍らにあり続けた。
　遮那の苦しみも葛藤も全て見てきたつもりだ。
　その背に負った罪は、計り知れないものなのかもしれない。
　自分を慕う全てを敵に回したとしても、救いたかった未来があったのだ。

　そして、遮那は見事にそれを成し遂げた。
　一番大切な師匠も、恋人でさえもその手で斬った遮那の心は本当に悲鳴を上げていて。
　それでも、周りの力を借りて此処に至る事が出来た。
　今はただ祝杯を交わしたい。
「全てを守ることは出来ずとも、永らえた命に感謝を、散っていった魂に安寧を」

　此より先の未来は、天香を背負う事も、大儀を成す事もないけれど。
　小さな幸せを夢見て。
「我が主よ。祝杯を」
「もう、其方の主ではないだろう。それに繋がりは主従だけではない」
　此よりは『友』と呼んでほしいと告げる遮那に杯を掲げる廻姫。
　鳴らす杯に満たされた酒が仄かに揺れる。
　只の人に戻った遮那と、只の剣に戻ったヴェルグリーズとの。
　秘密の宴――

＊SS担当：もみじ