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叶わぬ願い、消えない愛情
叶わぬ願い、消えない愛情
イラストSS
●あのひ、あのとき
外も暗くなり、ちぐさは帰路を急いでいた。
シャイネンナハトのためにキラキラと彩られた街中を抜けて、気づけば町はずれの薄暗い住宅街を小走りで進んでいるとき、ふととある一軒家から声が聞こえた。
声のした方を見ると、家族だろうか。よくは見えないが大小3つの影が窓越しに移っている。
「ママ―、ケーキまだぁ?」
「ははは、お前は食いしん坊だなぁ!!」
「こら!! 食器で遊ばないの!! お行儀良く待ってないと、サンタさん来てくれないわよ?」
「えー、それはやだぁ」
明るい笑い声、どこにでもある家族の団欒風景に、気が付けば釘付けになっていた。
「パパやママや、坊ちゃんも、そういえばこんな感じだったな。」
ふと思い出し、その表情が少し曇る。目の前のありふれた光景が不快であるというわけでは決してない。
それでも、そこにいたかった……否、今でもそこにいたい自分が彼の心をざわつかせる。
「僕は、僕、は……」
忘れられない、忘れることのできない、暖かな時間。
不意に零れた「それ」は、あの日あの時、過ぎ去りし日々への如何ともし難い、言いようのない感情だった。
※SS担当者:水野弥生