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アーベントロート・スープレックス!!!
イラストSS
輝かんばかりのこの夜に!
レガド・イルシオンの美しい夜空を眺めるリーゼロッテの背後から寛治は優しく声を掛ける。
「ご機嫌よう、お嬢様。素敵な夜ですね」
「ええ、ご機嫌よう」
――さあ、遂に両者リングにあがりました! あ、実況はレッドがお送りするっすよ!
マイクを片手に寛治とリーゼロッテの逢瀬を実況するのはレッド。何がどうしてそうなっているのかの細かい所はどうでも良いのである。
振り向いたリーゼロッテは寛治を見上げる。その紅色の眸に射られるだけで寛治も穏やかならぬ胸中に波が立った。
「お嬢様、御髪の乱れが……」
そっと手を差し伸べた寛治に「結構」とリーゼロッテは手を払除ける。ぱしり、と音を立てた手に寛治は「お嬢様?」と問うた。
「……貴方、『また』良からぬ書を作ったのでしょう」
「え」
ぎくりと寛治の肩が動いた。
――おおっと、これはまずい、拙い状況っすよ! 新田寛治――!
レッドが手に汗を握り、動向を見守っている。
寛治を見詰めるリーゼロッテに「お嬢様」と手を差し伸べた寛治の体が突如として宙に浮いた。
突如として背後を取ったリーゼロッテが勢い良く寛治の胴へと腕を回した。
当たらぬ胸! それでもお嬢様の温もりを感じてならない――が!
「あべしっ!」
ぐしゃんと音が立ち、寛治の体が大地へとめり込んだ。
眼鏡が吹き飛び周辺の雪が飛び散っている。余りの衝撃に寛治の体が一瞬バネのように撓ったのは気のせいではないだろう。
レッドは「うおお」と叫ぶ。見事、寛治は地面に突き刺さり美しいポージングで技を決めたリーゼロッテの表情の失せた白い顔だけがくっきりと見える。
――で、でたーー! アーベントロート・スープレックスだーーー!
レッドの実況が響き渡る。どうしてこうなったのかは青年の為に言うことも憚ろう。
だが、その技の美しさだけは後世にまで語り継ぎたいものである。レッドは「新田さん! どうですか、立ち上がれるっすか!?」と声を掛けるが……沈黙……。
――さあ、どうなる。此の儘、敗北か、新田寛治!
レッドの声かけにのっそりと起き上がった寛治はやれやれと眼鏡の位置を只したのだった。
第2ラウンドに続く……!
*SS担当:夏あかね