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ソアの黒猫による5人ピンナップクリスマス2021
イラストSS
●聖夜の大饗宴
古風な洋館の一室を貸し切って行われたそのパーティ。広間にはいくつものテーブルが並び、各々が立食形式のそれを楽しんでいる。
美しく飾られた花やケーキスタンドは豪華絢爛に煌めき、荘厳華麗かつ上品な紳士淑女のための大饗宴と呼ぶに相応しい。
きらきらと輝く景色はまさに夢幻の如く。それがたった一日、誰もが手を取り合う平和な日――聖夜(シャイネンナハト)であることを疑わせない。
その中でも、イレギュラーズ達が集うテーブルの周りは一層華やかだった。
真っ先にテーブルに駆け寄ったソアは、ぱっと表情を明るくさせた。
「わぁ! これなんかすっごく美味しそう。どれから食べようかな!」
ソアが様々なご馳走に瞳を輝かせているその横で、ジェックは器用に皿の上にディナーを盛り付けていた。あれもこれもと悩んでしまうソアとは反対にジェックは少しずつ堪能する様子。
「ソアもお皿、はい。ご馳走は逃げないから、好きなものから食べたらいいんじゃないかな」
「うんうん、そうしようかな。ありがとう、ジェックさん!」
「どういたしまして。アタシのおすすめはこのお肉。柔らかいし、ジューシーだった」
「本当? ならボクもそれを食べてみよう!」
嬉しそうに笑ったソア。ジェックもそれを見て頷いた。口元には笑みを添えて。幸せは、誰かと分かち合えるものだから。
獣種ならではというべきか。ミアはギフトを活かしかばんの中にお肉を入れようと試みるようで。
(ちょっとくらいなら、きっと大丈夫、なの! 残されるよりも、ミアが食べるほうが幸せだろうし……)
ツンと澄ました白猫の悪戯には誰も気付かない。ミアが食べていないことを心配したクルルはとたとたと駆け寄ってバランスよく盛り付けられたお皿を差し出した。
「ミアちゃんもほら、折角だから沢山食べようよ! わたしのお皿だけどこれあげる、はい!」
「あ、ありがと、なの……。それなら、好意に甘えて……にゃ」
こくりと頷いたミア。早速一口食べてみる。じゅわっと口の中で溢れる肉汁が美味しい。最初こそつんとした様子だったのが、肉を食べ始めてからみるみる表情がゆるんでいく姿に、クルルもにっこり微笑んで。
「ミアちゃんってすっごく美味しそうに食べるんだね!」
「にゃ……美味しいは、正義、なの」
またひとくちぱくり。これはお持ち帰りしたあのお肉にも期待ができそうだ。
「わぁ、すっごく美味しそう! こんなパーティ夢みたい……!」
手を合わせて笑みを浮かべたアレクシアは、ケーキにフルーツにと並んだ目の前のテーブルに幸せそうに目を細めて。
「わたしもそう思う……夢じゃないんだよね。これ、食べちゃってもいいんだよね?」
興奮した様子で頬を染めるセリカは隣にて声をあげるアレクシアに声をかける。
「うん、きっと! だってお呼ばれしたんだもの。ドレスだって着たんだから、きっとだいじょうぶだよ!」
「……じゃあ、わたし、ケーキから! 普段はちゃんとご飯から食べるけど、今日くらい……!」
「あははっ、うんうん、いいと思う!」
たまの晩餐なんだからとつけたしたアレクシア。セリカは頷いて。
「よぉし、それじゃあ頂きます――!」
「……ぷはぁ。やっぱり特別な日にお友達と飲むお酒って、いいわぁ」
ワイングラスをこつんと合わせる。その相手はマルベート。赤ワインを揺らしながらご満悦に頷いた。
「まったくもって、その通りだね。お酒は普段から美味しいけど、何かいいことがあったり楽しいことがあると、ますます捗るよ」
「本当にその通りよねぇ。それにパーティってついつい飲み過ぎちゃう」
「あはは、それも同感だ! こんなに美味しくて楽しいのが悪いんだよ」
「うふふ、そうねぇ」
今宵の乾杯に添える言葉は『輝かんばかりのこの夜に』。年に一回だけの特別な合言葉。それがあるからより一層楽しくて、美味しいのだろう。
「ラダ君はお酒も飲めるんだね!」
「ああ、マリア殿か。……そうだな、今日くらいはいいかと思ったのだ」
「うんうん、わかるよ!」
赤いポニーテールが揺れる。シャンデリアは仲間の楽しげな様子を照らし出す。
「みんなあんなに楽しそうだと、お酒が進んでしまう気持ちもわかってしまう気がするよ!」
「マリア殿の恋人もお酒が好きだろう? 今日の話をすると羨ましがられてしまうかもしれないな」
「私もそう思うからお酒をお土産に持って帰るつもり!」
「ふふ、そうか」
ラダがくすくすと笑う。マリアもそれにつられるように笑って。
今宵はシャイネンナハト。誰も彼もが武器を持たない、たった一日だけの特別な日。
絢爛な夜には特別な日常を。平穏を。輝かんばかりのこの夜は、どんな人にも幸せを齎した。
そして願わくば、来年もこんな平和なシャイネンナハトが迎えられますようにと――この輝かんばかりの夜に願いを込めて。
※SS担当者:染