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抱きしめて、傍にいて、どうか今だけは。僕が僕を見失わないように。
抱きしめて、傍にいて、どうか今だけは。僕が僕を見失わないように。
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聖夜の青白い月明りが部屋の中に落ちてくる。
隣で身じろぎをした鹿ノ子が気になって遮那は彼女へ視線を向けた。
「寝れぬのか」
「はい……」
鹿ノ子の目の下には隈が刻まれ、やつれた頬が痛々しい。
「夢を見ると言ったな。怖い夢なのか」
「……わからないッス、でも、どうしたらいいか分からなくて。寝たくなくて」
眠りに落ちてしまえば、自分が自分で無くなってしまう気がするのだ。
無くしてしまった記憶が突然、鹿ノ子というものを塗り替えてしまうかもしれない。
遮那との思い出を忘れてしまうかもしれない。
好きだという気持ちが消えてしまうのではないか。
それが、何より怖いのだ。
「僕は、此処に居るのに。遮那さんの傍に居るのに」
「鹿ノ子……」
遮那は辛そうな鹿ノ子を抱き寄せて、腕に力を込める。
夢の中の何に怯えているのか遮那には分からない。
されど、涙を流せない彼女がこんなにも泣きそうな程、震えているのだ。
「大丈夫だぞ、鹿ノ子」
「……」
返す言葉は指先に。
後ろに戻る事も、前に進むことも今の鹿ノ子には難しい。
以前のように突き進むことができたなら良かったのに。
ただ、今この時だけはと、遮那の温もりに縋ることしか出来なくて――
*SS担当:もみじ