イラスト詳細
まだ終わらない聖夜(+風)
まだ終わらない聖夜(+風)
イラストSS
●赤薔薇、蒼薔薇
リーゼロッテ・アーベントロートこそ奇跡の薔薇だ。
「ね、素敵でしょう?」
耳元で囁くように響いた愛しい人(ファム・ファタル)の蠱惑にレジーナは小さく頷いた。
抱きすくめるような距離は雪の日に丁度良い。
この場所、この距離を自分だけのものであると彼女は信じたい。
「レナさんに一度は見せたかったのです」
「私に?」
「ええ。『貴方だけ』に」
嘘吐き、と思って。レジーナはそれを言わなかった。
アーベントロートの庭園は幻想で一番とも称される。
多種多様な薔薇の咲き誇る設えは、特別な魔術によって保護されており、一年を通じて訪れる者の目を愉しませている。
『そこ』を喜びと共に訪れられる者は多くは無いが、少なくともレジーナが数少ない例外であるのは間違いない。
……その位の自負はある。
「お嬢様は……」
「うん?」
「お嬢様は、我(わたし)を……」
小首を傾げたリーゼロッテはやはり毒花だ。気まぐれなその美貌が、薄い唇がどんな言葉を吐き出すかが怖くて。レジーナは「いえ」と話を打ち切った。
「おかしなレナさん」
恐らくは分かっていてそんな風に言う。
リーゼロッテは相変わらずマイペースで、そして続けるのだ。
「今晩は泊まっておいきなさいな。
ふふ、寝物語に特別なお話を聞かせてあげられるかも」
「――――」
嘘吐き!
リーゼロッテ・アーベントロートこそ奇跡の薔薇だ。
甘やかな毒で今夜もレジーナをぐずぐずに溶かすだけ!