イラストSS

　――とある青年が見た幻想。

　燦々と降り積もる雪の中を、青年は傘も差さずに足早に進む。「今日は雪が降るよ」と『大家さん』が言っていたにも関わらず、話半分に聞き流した事へと沸いたのは僅かな後悔。真白の景色は体を冷やし、学生服の肩を濡らす。
　早く帰宅して『大家さん』が誘ってくれたクリスマスパーティーに参加しなくては……ああ、けれど此れだけ濡れぎすになってしまったら、先にシャワーを浴びなくてはならないだろうか。あの人と過ごす時間が短くなってしまうと苦い思いが滲む。
　やっとの事でアパートに辿り着いた青年は101号室の扉が開いたことに気付いた。住民達が騒ぐ喧噪が漏れ出し、穏やかな笑みを浮かべた『大家さん』が顔を覗かせる。
「おかえり」
　タオルを手にしたその人は何時もと変わらぬ笑みを浮かべて微笑んでくれる。
「寒かったでしょ。どうする？　先にシャワー浴びてくる？」
　そんな言葉に胸が躍るのも仕方が無い事だから。タオルを受取り「そうします」と慌てて走る青年は、今宵こそ彼女に愛を伝えようと考えた。パーティーにあの人の愛しい人が居る事なんて、微塵と知らずに。


　　＊SS担当：日下部あやめ