イラストSS

　――砂漠で星を見ませんか。

　エルスの誘いにディルクは構わないと頷いた。彼にとっては見慣れた景色だろう。
　けれど、エルスにとっては彼と共に見る空は何時だって表情を変えているから。
　シャイネンナハトの夜、寒々しささえも感じる空の下でエルスははあと息を吐いた。真白の吐息を見遣ってからパカダクラの背でディルクは「羽織ってろ」とポンチョを乱雑に被せる。
「も、もう……折角お洒落したのに！」
　拗ねたように唇を尖らせたエルスへとディルクは小さく笑った。
　彼の背にしがみ付きゆっくりと進む景色を眺める。パカダクラの歩調は何時もよりも少しゆっくりで、美しい星空に見惚れているようだった。
　砂漠の夜は寒いからこそ星がよく見える。
　エルスにとってもディルクにとっても『ラサの空』は見慣れたものである筈なのに。
「綺麗」
「綺麗か？」
「……はい、とっても」
　――今日の空は、何時もより格別で。特別で。
　愛おしくて堪らない。そんなことを口にすれば貴方は揶揄うだろうか。
　背後から横顔を盗み見て、エルスは緩んだ口許をポンチョで隠した。


　＊SS担当：夏あかね