イラストSS

●大佐
　榛名慶一は鳳圏の英雄である。
「君には期待しているのだ」
　慶一にそう言葉を掛けられた時、栄龍は雷に打たれたかのような心持だった。
　彼の穏やかながらに威厳のある――良く通るバリトンが言葉を紡いだ時。
　彼の思慮深く切れ味鋭い双眸が自身の姿を映した時。
　彼の形の良い薄い唇が、その口角がほんの少しの笑みの形を作った時――
　栄龍は胸の底からせり上がってくる誇りと、祖国への想いと、『大佐』への敬愛を隠す事は出来なくなった。
　終わらない――永劫の戦いを続ける鳳圏において戦争とは日常だ。
　日常であり、その先に地続きになる平穏を守る手段に他ならない。
　故に、退けない。故に、兵士の仕事は死ぬ事だ。
　慶一はそれを何度も言って聞かせ、栄龍はそれを当たり前の事と認識している。
（ふむ。『適正』はあるようだ）
『例えば栄龍が同じ兵士を二人殺して死んだなら、数学的にはプラスに他ならない』。
　道具に愛着を持つ事があったとしても、故障はちょっとしたアクシデントに過ぎないのだ。
　自ら訓練をつけるのは『事実』に疑問を抱く弱兵は要らぬからである。
「祖国のために、命を抛ちたまえ」
　さながら世間話でもするように慶一が穏やかに微笑めば。
「――ご期待下さいッ！　必ずや！」
　栄龍（こま）はブリキのロボットのような下手くそな敬礼をするだけだ。


※スキル『鳳落鳳圏』を習得しました！