イラストSS

｢トリック・アンド・トリート！｣

　響いたのは出鱈目な合言葉。雪降る街に底抜けに明るく調子外れな少女の声。愛らしいオバケをお供に、背負った袋はジャック・オ・ランタン。シャイネンナハトの夜に現れたオレンジ色のサンタクロースは、はち切れんばかりに詰め込まれたお菓子と笑みをばら撒いた。

　舌を蕩かすキャンディも、サクサク躍るクッキーも、目を悩ませるマカロンも、心まで満たされるドーナツも、全部全部、まるでファントムナイトから追いかけてきたようで——とびきり甘いチョコレイトだけは、グラオ・クローネからひと足先に飛んできたのかもしれないけれど——つまるところ、橙色に染まったマリカ・ハウという名のハロウィンの申し子のいる場所だけは、季節が狂った有様なのだった。

　突然降ってきた無邪気な悪戯に驚く顔をお土産に、次は何処だと駆けていく姿は嵐そのもの。吹き抜けた後に残された感謝も非難も誰何の声も、彼女は何ひとつ拾わない。その結果として、いつか痛い目に遭おうとも立ち止まらない。踊っているのか、踊らされているのか、知る由もない。

　お菓子をくれてもイタズラしちゃう小悪魔少女が、イタズラにお菓子をばら撒いたなら。さてさて、そのお菓子は誰のもの？


　＊SS担当者：氷雀NM