イラストSS

「この地でも、幸不幸満ちておる」
月は高く地を照らす深夜、薄暗い森の小さな祭壇の前で祈る人影が一つ言葉を零す。
少年に見えるウォーカーの彼は、熱心な宗教家であった。
前の世界の宗教を信仰し続け、一方混沌世界における宗教も良いものとして広き視野を持つ。
その彼がただ一人祈るのは、勿論この聖夜の為。
この世界では『シャイネンナハト』と呼ぶらしい、暖かな夜の為である。

「しかして今日は戦い無き平和の日。とても、良き事であろう」
目の前にある石積みの祭壇は彼の人生を現しているかのようでもあった。
少年の齢は軽く五十を超えている、などと誰が気付けよう。
しかしその信仰に対する姿勢、深き祈りは決して短い年月で成されたものではない。
一つ一つを積み上げるよう、丁寧に、彼が神へ捧げた祈りの分。
其れに応えるよう、ほんの少し月明りが祭壇を照らしている気がした。

「この平和が長く続かんと祈り続けよう」
目を伏せ、冷えた大地に膝を付き言葉を紡ぐ。
囁くような聖句は、森に住まう動物達の耳にも届いただろうか。


　＊SS担当者：月見里あとりNM