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オライオンの千乃 安倭によるシングルピンナップクリスマス2020(縦)
オライオンの千乃 安倭によるシングルピンナップクリスマス2020(縦)
イラストSS
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月光が差すのみの廃協会にて、オライオンは座り込み、手に握ったクッキーをじっと見つめていた。
食料の調達の為に町に向かった折、馴染みの店の主に贈られたそれは、今のオライオンにとってあまりにも縁遠く……同時に、嘗てのオライオンにとっては眩い過去を想起させるものだった。
――あー! お母さんったら、まだ作り終えてないのに!
思い出すのは過日。無辜なる混沌に導かれるより前の事。
自分の子供が誰の助けも借りずに、両親の為のお菓子を作っている調理場へ、妻がこっそり案内してくれたこと。
……訪れたオライオンに、むくれた様子の子供は、それでも気を取り直した後、こう言ったのだ。
――どう? 私一人で作ったんだよ、すごいでしょ!
お父さんに味見させてあげる、と言ったあの子の顔を。
同時に、あの時口にして、涙交じりに笑ったクッキーの味を。
男は、最早、忘れかけている。
「……」
記憶から帰ってきた男が、包みから取り出したクッキーを、ぱきりと割って口にする。
「……甘い、な」
あの時のそれと違う、商品としての上品な味と香り。
その出来の良さが、だからこそ、あの時の不出来な――しかし、一生懸命に作られたクッキーの味とは違い過ぎて。
オライオンは、涙を拭いながら苦笑した。
*SS担当者:田辺正彦GM