イラスト詳細
太井 数子のぺいゆによる3人ピンナップクリスマス2020(横)
イラストSS
●Brow,blow,thou winter wind.
煌々と燁やくツリーの天辺に、お星様を飾るのは不思議と何処の世界でも一緒なのかしら、なんて事を思いながら数子――ミーティアがきゅっきゅと白い道に足跡を刻む。『早くしないと、置いて行っちゃうわよ』と空から降って止まない白と舞い、ヒールで蹴る速さはビバーチェだ。
「雪降っとるねぇ、良かったねぇ」
その一歩後を着いて歩く蛇紋天は、ミーティアが雪の降る此の日を待ち侘びていた事を識っていた。『ホワイトクリスマス』だとか何とか――云っていたか。自分には馴染みない響きではあったが、眸をきらきらさせて友人が語るから、屹度とても愉しくて良い一日なのだろうとは。
そして其の更に後ろ。付かず離れずの距離を悠々と歩くベルフラウの手には何時の間にやら湯気立つグリューワイン。オレンジと共に加えたカルダモンやスターアニス、ローリエのエキゾチックで大人な香りを片手に歩けば寒さも忘れてしまいそうで。軈て、もう少し後。彼女の抜け駆けに気付けば『ずるーい!』と聲が挙がるのは折り込み済み。其の為に可愛いお嬢さん達用のノンアルコールのお店も見当をつけてある。
オーナメントにキャンドル、煙出し人形に、帽子やマフラーなどの防寒具もあれば、シュトーレンにクッキー、ターキーなどの持ち帰れる品から、小腹が空けばソーセージや芋料理、デザートだって。人が引っ切り無しに入れ交い、マーケットは賑わいと温もりで満ちていた。
「あのマグ可愛いけれど、お酒オンリー! ぐぬぬ……!」
出店の中でもグリューワインは少しだけ高い。其の代わり気に入ればマグを持ち帰る事が出来、店に返せばその分の代金が返されると云う仕組みだ。ミーティアが睨めっこするマグはころんとまあるくて赤いブーツ型。
「私が中身だけ頂こうか」
「良いの!?」
「じゃ、じゃあわしのも……」
「判った、判った。然し此れだけで腹がいっぱいになりそうだな」
白い綿飾りを模した飲み口に、脣に引いた紅。『大人の証拠』みたいで色っぽくて、ふたりしてほう、と見惚れたのも束の間の事。色気より食い気か、クレープやワッフル、栗にシュネーバルと店を移ろって行った。
「……――まあ! あれなんか」
輝かんばかりの此の夜の記念に、三人揃いを強請られた彼女は。後に、『もう一生分呑んだ気がする』と笑って――金さえ払えばマグだけ買えた事を識って肩を落としたらしい。
*SS担当者:しらね葵NM