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オーナメントを飾りに
オーナメントを飾りに
イラストSS
明日食べるパンが無い。
古木 文(p3p001262)は己の不精ぶりを軽く叱咤し、財布と共にマフラーを掴んだ。
今日は夜の色が濃い。
風は冷たいが急ぐ身には心地よく、普段よりも通りに溢れる笑い声に知らず足も軽くなる。
枯れ葉の代わりに光を纏う街路樹には一体いかなる魔法がかけられているのだろう?
シャイネンナハト。約束された平和の日。
まだ開いていたパン屋に感謝を捧げ、黒麦の丸パンを二つほど確保した。
それから薫した鮭とピクルスを挟んだバケットと馬鈴薯サラダ入りの小麦パン。
会計間際、さりげなく加わったケーキを見ても馴染みの老婦人は何も言わずに微笑むだけだ。
「どうぞ」
「オーナメント?」
会計終わりに手渡されたのは生姜の香りを纏った、愛らしいクッキーの天使。
「良ければ広場にあるツリーに飾っていってくださいな。うちのパン屋の樹なんですよ」
少女のように笑う老婦人の言葉に、ツリーに会いに行こうと男は決めた。
「ええ、それでは御機嫌よう。輝かんばかりのこの夜に」
もう少しだけ夜の散歩を続けよう。今日は優しい夜だから。
*SS担当者:駒米NM