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ふたりで
ふたりで
イラストSS
●Lover by Lover.
世俗からの隔絶、或いは此の世には最初からひとりしか居なかった様な。
地を這う者達の雑踏からは遠く。堆く『古』と『堕落』が積み重なった城の中でも、最も高みに在る其処は天と対等かと見紛う程で――城の主人たる彼女は豊かではしき黒髪を寒風に棚引かせて居る。一枚の絵画の様な光景は、ふと気付いた時にはひとり足されて、然して其の逢瀬には静寂が満ちていた。
痛い位に澄める空気で肺を満たし、望むは月の眩き。
こんな素敵な夜だからこそ言葉は無粋と云うもの――愛を囁く事もせず、愛を確かめる事もせず、形の良い脣から漏れるのは星瞬く空に融けて霧散する白い吐息のみ。
只、時折。宵闇の中で月に照らされ煌々とする横顔に見蕩れては。決まって気恥ずかしげに目を瞬かせてから、互いに相手にしか見せない極上の笑みを返し亦、何方からともなく月に貌を向けるのだ。
『月が綺麗』だなんて使い古された『I love you』を捧げずとも、真円を描く其れに眸を奪われ続ける。其れが何よりもの証拠だろう。
軈て全てが安寧の睡りについて、そして太陽が昇る迄。
只、其処に在り続けた永い永い、ふたりだけの夜の事。
*SS担当者:しらね葵NM