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…なんか、いい夜だな。
…なんか、いい夜だな。
イラストSS
●流れていく
信号が変わり、それを告げる電子音が街角に再生される。
先を急ぎ行き交う旅人達がある者は駆け足で走り、ある者はスマートフォンを片手に歩いていく。
ドームで区切られた偽りの東京、その様な地でも旅人達は何時もと変わらぬ日常を過ごし、そしてこの聖夜を楽しもうとするのだろう。
そんな人々の往来を壁に寄りかかり、ただ見つめ続ける男の影があった。
まだほんのりと暖かいテイクアウトのコーヒーが入ったカップで暖を取りながら、仏頂面で何の目的もなくただ静かに眺め続ける。
自分にはこれでよかった、これがよかった。
疫病神の身である男――トキノエが何かに大きく干渉すれば、聖女の祈りがあれど良からぬ事が起ころう。
だから。こうして遠くから幸せそうな彼らを眺める事が彼自身が感じた最大の幸福であり、実際それは彼にとってどこか愉快な感情をもたらした。
「ああ……うまいな」
ストローから口を離すとトキノエはコーヒーカップを眺めぽつりと呟く。なるほど、安くて旨ければ流行るわけも頷ける、今度来る機会があれば……そんな事を考えて。
いい、夜だ――
空になったカップを片手にトキノエは再び、この静かな夜を過ごす事に決めたのであった。
*SS担当者:塩魔法使いGM