イラストSS

●紫煙の夢
　シャイネンナハトの夜に、夫婦で静かに過ごそうとやって来たバーの片隅。乾杯の声とグラスを重ねる音が響いて。
　グリムゲルデ夫妻がいるのは、夫婦水入らずで過ごせる個室のソファーに隣り合わせで。
「今日も綺麗だな、ルーキス」
「ふふ、ありがとう。ルナールも素敵だよ」
　ナイトドレスに身を包んだ妻の美しさを褒めれば、妻も夫を褒めて。
　そんなやり取りに二人でくすくすと笑い合う。
　ずっと師弟として共に居て。そして夫婦となって共に在り。
　幸福を共有できるこの時間が尊くて。相手が何より愛しくて。
「ねぇ、ルナール。私もシガー吸いたいから火をちょうだい？」
　先にタバコに火を付けていた夫に呼び掛けるルーキス。今日は普段の煙管ではなく、同じものをと思って。
　ルナールの懐から煙草を一本取って咥える。
「ああ、いいよ」
　了承の合図があれば。
　二人の顔は自然と近付いて。
　煙草の先と先がくっついて。コツがなければ難しい火の渡し方を当たり前のように。
　ルナールが吸い、同じようにルーキスが吸って煙草に火をつけて。
「ありがとう」
　それは唇と唇の甘いキスではなくて。
　ほろ苦い大人のシガレットキス。
　紫煙の中で夢心地は続く。


　＊SS担当者：灯火NM