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イラスト詳細

フゥ・リンの齧歯類による三周年記念SS

作者 齧歯類
人物 フゥ・リン
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

3  

イラストSS

『鈴の音と猫と行商人』

「ふーやっと終わったヨ。」
 重そうな背負子を背負いながら街を行く紫の髪に眼鏡の女性。
 彼女の名はフゥ・リン イレギュラーズであり行商人でもあるリンは今日も仕入れの為に街に来ていたのだが、
「アンタ知ってるかい? この街にはねぇ不思議な言い伝えがあるのさ。」
 買い付けに行った露店の店主である老婆曰く。 この街には守り神様がいて守ってくれている。 
 気まぐれな性格で人前に姿を見せる事はめったにないが時折、 人を招くことがある。
「ただし、この細工球を持っている人間だけだけどねぇ?」 確かその様な事を話していたはずだ。
 街の中心にある広場に腰掛け一休みしながら老婆の話をふと思い出し(担がれただけかもしれないけど本当にいるなら会ってみたいネ)
 そう思いながら綺麗ではあるが小玉のスイカほどは大きさのある細工球を見つめていると……「なぁん」白く美しい長毛の猫が一匹こっちを見て鳴いた。
「わあ!とっても綺麗な猫ちゃんネ!」動物好きなリンはその白い猫の美しさに思わず魅せられ、 何処から来たのだろうと 屈みながら目線を合わせる。
 するとスラりと伸びる前脚でちょいちょいと手招きをする白猫。 付いてこいと言うことだろうか?
 そう考えていると踵を返しスタスタと何処かへ駆け出す白猫「あ、ちょっと待つヨ!」 まだモフモフさせてもらってない!
 慌てて背負子を背負い直すとリンは白猫を追い駆ける。

 そうして白猫を夢中になって追い駆けていくうちに、 
 チリンチリンと鳴る鈴の音色と共にいつのまにやら白んで行く景色に気付かぬまま、 
 白猫が立ち止まった先は先程まで休んでいた広場かと思ったのだが……おや? どうやら様子がおかしい。
「誰の気配も感じないネ……」 静か過ぎるそれに人の気配が消えた――
 そして、 それに反して確かに感じる強大な獣の気配。 その気配に気付き流れるように臨戦態勢。 拳を構えたリンだったが、
「う゛な゛ぁぁぁぁん」間の抜けるようなその鳴き声に肩透かしを喰らい
「あらラ!?」踏み込もうとした足の行き場を無くし、 地面に躓いたリンは思わずずっこけた。


 鳴き声の主は大人よりもより大きいのではないかと思う程に巨大なハチワレの三毛猫。
 そしていつの間にやらそれを囲む様に集まった様々な種類の猫達に包囲されていたリン
「どっどうしよウ…………♡」思わず緩みっぱなしの口元。 眼前に広がる光景は彼女にとっては楽園そのものだった。

 猫達は地面に倒れているリンの様子を窺うようにジッと見つめている。 そんな中、 リンの背負子に興味を持ったのかゆっくりと大きな足を伸ばしてくるデカ猫……
 あっよく見るとこの猫ぽっちゃりしてる。 足を伸ばす度お腹が揺れてるし、 それに毛並みもとてもふさふさだ。
「これ(背負子)の中身が気になるノ?」 「な゛~」
 まるで……いや、 確実に彼? 彼女? デカ猫はリンの言葉を理解している様でこくりと頷きながら返事を返す。
「ふふ、OK!ちょっと待ってネ?」
 リンは持ち前の身体能力で飛び上がるようにして起き上がると、 重たい背負子を下ろし中身を漁り始めた。
 さて、 何かこの子(デカ猫ちゃん)のお眼鏡に適う商品はあっただろうか…………。

「これはどうネ?」 
「(ぷいとそっぽを向く)」
「えーっとこれも駄目なら……これはどうヨ!」
「くぁぁぁぁ(退屈そうに欠伸をする)」
 さて、 先程からリンが背負子の中身を探っては商品を取り出しデカ猫に差し出してみるものの…………
 少し触ってみては直ぐ興味を失ったり、 そもそも興味すら示さなかったりでかれこれ30分。
 辺りに放り出された商品は取り巻きの猫達の良い玩具にされていた熊だか猪だか良く分からない木彫りの置物はある猫の爪とぎにされたり、
 かと思えば何処で仕入れたかも覚えていないネズミ型をしたメカ? が縦横無尽に走り回っているのを追い回している猫達が居たり、
 そうそう、 ここまでリンを案内したあの白猫はと言うと「んなぁん♪」 エキゾチックな装飾の施された桶の中に反物を敷いてその中でご機嫌そうに鳴いていた。

 更にしばらくして……「えーい!もうこれで品切れ!看板ヨ!!」 最後の最後に取り出したのは老婆から買った例の細工球。 「ぶにゃっ!!」
 それだ!! と言わんばかりに巨体を揺らし細工球に飛びつくデカ猫「よ……良かったヨ」 やっとお目当ての品を提供できたらしい。
「ここまで厄介な “お客さん” は初めてネ。これはお代をはずんでもらわないト……わわわッ!」
 デカ猫はこれがお代だと言わんばかりに前足でもってリンを体の方へ引き寄せてみせる。
「もしかして……触らせてくれるのかナ?」
 リンがそう尋ねるとデカ猫は何も言わずに細工球で夢中になって遊んでいる様子。
 なので恐る恐る触れてみると……予想以上のふわふわ感。ぽっちゃりしているせいか少しぽよんとした触り心地がたまらない。
 どうやら嫌がられていない様なので思い切って胴に抱き着くようにして顔を埋めてみる……至福。
 ふさふさの毛並みは陽だまりの様な香りがして干したての布団よりももっと上等な、 まるで雲の上に寝転がっているような心地良さ。
 その夢見心地を堪能しつつ、 いつのまにやら夢うつつ。

「あーもっとモフらせて欲しいヨ……はっ!?」
 リンがふと目を覚ますと先程まで休憩して広場のベンチに座っていた……さっきまでの出来事は夢だったのだろうか?
 それにしては妙にリアルな夢だった。 不思議な事もあるものだと思いながらも
「さっ日が高いうちに仕入れた品を売りに行こうかナ!」
 脇に置いた背負子を担ぎ直し足取り軽く広場を立ち去るリン。

 ―――鈴の音色と共に何処からか
 あの猫の鳴き声が「な゛~ん」と彼女の去った後の広場に静かに響くのであった。

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