イラスト詳細
魔法少女セララ『対決!セララvsカメラ怪人フラッシュショット!』
イラストSS
少女の手に託されたそれは、まるでお伽噺のようなきらめきだった。
きっと女の子なら誰もが一度は考える魔法の物語。
ありふれた、しかしかけがえのない日常に紛れ込んだ、ほんの一匙のスパイス。
その刺激に夢見た正義を纏う少女は、今日も秋葉原を駆け抜けていた。
「たぬぽん、ほんとにこっちであってる!?」
「間違いないぽん! マジカルカードの反応はすぐ近く……いた、あいつぽん!」
妖精たぬぽんの先導で辿り着いたのは、秋葉原の顔とも言うべき電気街の一画。
少女――セララの故郷でもあるこの街は今、恐るべき魔の手の侵略に脅かされていた。
その名は『ダークデリバリー』。
妖精たぬぽんからマジカルカードを奪い、その力を以て怪人を生み出し、彼らが掲げる世界征服の大望の足掛かりとして秋葉原を牛耳らんとする悪の組織!
そしてそれと戦う一人の乙女こそ、妖精に希望を託され人々の平和を守る正義の魔法使い――魔法少女セララであった!!
「カメメメメメ! 美男美女は生の表情をプロマイドにして売り捌き、オフを楽しむ芸能人はあることないこと激写して週刊誌にタレコミ! ラインTwitterインスタ映え、ありとあらゆる画像を収めインターネットを荒らし尽くし人心を乱してくれるカメー!!!」
「う、うわああああああああああーーーー!!??」
ひらりと空から舞い降りたセララ。その目の前では一体の怪人が無辜の市民へ猛威を振るわんとしていた。
珍妙な語尾で高らかに笑い、パシャパシャと眩しいフラッシュを撒き散らして辺り構わず激写しているのはカメラの怪人。
なんだか映画館に親戚でもいそうな風体の彼は一眼レフの頭を振り乱し、やがてセララの存在に気付いて振り返る。
合わせて周囲に控えていた覆面頭の戦闘員たちがカメラを構え、対峙するセララを取り囲んで撮影した。
「わわっ、なんだか有名人みたい!」
「セララちゃーん! こっち向いて~~!!」
「えっ、こう? えへへ、可愛く撮ってね!!」
「Fooooooooooooooooooo!!!」
控えめに言っても美少女のセララである。カメラ怪人の配下として撮らぬ理由があるだろうか? いやない。
件の怪人もセララを一目見た途端興味深そうに顎(?)へ手をやり考え込む始末。
「なんと撮影しがいのある被写体! こりゃプロマイドにすれば過去一番の高値が……ってちがーう! お前達一旦撮影禁止カメ!!」
「Booooooooooooooooooo!!!」
「えー、せっかくだったのに~」
が、そこはそこ正義と悪。配下のブーイングにも負けず怪人は居直った。
残念そうにしてるセララの前で改めてポーズを取って名乗りを上げる。
「我が名はカメラ怪人フラッシュショット! 貴様は我らが組織に楯突く魔法少女、セララカメな?」
「セララカメじゃないよ、セララだよ! キミたちがたぬぽんから奪ったマジカルカード、返してもらうんだから!」
ズビシ、と指差し宣言するセララ。
対する怪人フラッシュショットは、片腹痛いとばかりに嘲笑を浮かべる。
相対する両者から放たれる火花がぶつかり、せめぎ合う闘志は一種の力場となって展開し二人を包む!
正義と悪が戦うとき、世界はその破壊を恐れて両者を並行次元へと移送する。
故にこのときよりこの場所は、決戦のバトルフィールドへと変貌した!!
「カメメメメ……この力は我らが有効活用してこそ輝けるというもの! 見せてやろう、『光のカード』から生まれし我が力の真髄を!!」
「ボクは負けない! インストール――セイバー!!」
怪人が猛り、応じてセララもマジカルカードを展開した。
宿したのは彼女が最も頼みとする『セイバー』のカード。熟達して剣才を齎す魔法のカードは、一瞬にしてセララを熟練の剣士へと変える!
「先手必勝! セララスラアアアアアアアッシュ!!!」
故に機先を制する挙動も尋常のものではない。常人には決して捉えられぬ超高速で迫り、怪人を唐竹に断ち割ろうとするが……。
「成程大した速さカメ。まさに目にも留まらぬ早業、しかし――フェイタルフラッシュ!」
「わわっ、まぶし――!?」
突如としてカメラ頭のレンズが光を放ち、セララの視界を埋め尽くす。
瞼を閉じても尚強烈に突き刺さる光の奔流はセララの太刀筋を歪め、あらぬ方向へとその切っ先を誘導していた。
先手必勝が一転して大きな隙と化したのを逃さず、フラッシュショットの反撃がセララを打ち据える。
「んにゃー!?」
「人の目には留まらぬとも、光学技術の粋を集めた吾輩のレンズには文字通りハエが止まるスピードに過ぎぬカメ! そう、光を捉えその一瞬を写し獲ることこそカメラ怪人たる吾輩の力!」
「ぐ、ぐぬぬ……は、速い……、っ!?」
「即ち『ダークデリバリー』が誇る最速の怪人こそ吾輩カメー!!」
「くっ、インストール、フライト!」
意気揚々と己が強みを謳い上げ、初撃に怯んだセララへ猛攻を加えるフラッシュショット。
未だ視界定まらぬ中でセララは、咄嗟に『フライト』のマジカルカードで空へと逃れ、怪人の拳足が届かぬ領域で体勢を立て直す。
燕の如く俊敏に空を駆けるフライトモード。しかしそんなセララをあざ笑うようにフラッシュショットはレンズを空へ向けると。
「猪口才な、フラッシュバレット!!」
「だ、弾幕~~!?」
シャッターを切るたびに放たれる光の弾幕で迎え撃った。
さながらSTGの如く放たれる弾幕の瀑布。されどセララも大したもの、驚くべき身のこなしでそれらを尽く回避する。
しかし形勢は明らかに怪人にあり、セララの不利は否めない。遠近共に隙がなく、さりとて近づけばセイバーフォームのセララをも超える超スピードと目潰しで対抗も難しい。
「だ、ダブルインストール! シューター!」
「ほう、吾輩と弾幕勝負カメ。面白い、受けて立つ!」
とっておきのダブルインストールで『フライト』に加えて『シューター』のマジカルカードの力を宿し、セララも弾幕を以て応戦するが……それも膠着に持ち込むのが精一杯だった。
しかしその拮抗も一時のものに過ぎず、時間は怪人の味方だろう。初手で反撃を食らったぶん、セララのほうが心理的に追い込まれていた。
(速い……! だけど一撃もらってわかった、アイツ自身はそんなに強くないんだ。だから一撃さえ当てれば形勢は逆転するはず! けど、ああも速いんじゃ……どうにかして一瞬の隙を――!)
目まぐるしい攻防の中でセララは必死に思考を巡らせる。
垣間見えた一筋の光明を繋ぐため、短くも濃厚なこの一戦に思いを馳せ……ふと気づく。
(アイツの動き、もしかして……なら!)
セララは空から大地へ降り立ち、弾幕を収めた。
そして静かに目を瞑り、剣を掲げて神妙な構えを取る。
それを見てフラッシュショットは、ようやく観念したか、と笑みを零した。
「なに、命までは取らぬカメ。その身包みを剥いで我々『ダークデリバリー』の広告塔として吾輩直々にプロデュースし、組織の稼ぎ頭として――」
「悪いけど、そうはならないよ」
「なにぃ……?」
怪人の誘いを真っ向から切り捨て、セララはニッと笑みを浮かべる。
構えた剣の奥から、未だ闘志萎えぬ輝きを目に宿し、一言。
「この一撃で――決める!」
「まだ足掻くか! ならば教育してやろう、これがプロデュース第一弾カメェー!!」
両者が吼えて、セララが駆けた。
初撃と同じ真っ向から怪人を切り捨てんとする肉薄。変わらぬ動きに所詮は焼き直しかと怪人が呻き、そのレンズをセララへ向けて――
「フェイタルフラ――」
「ダブルインストール――サンダー!」
怪人フラッシュショットが目潰しの閃光を放つ間際、先んじてセララの詠唱が響く。
既に展開されていた『セイバー』の力。そこへ重ねるようにして解放された『サンダー』の力が、その剣に雷光を宿した。
――目も眩むほどの閃光を、怪人に向けた切っ先から迸らせて。
「強すぎる光は逆に何も見えなくなる、それはカメラも一緒だよ!」
「め、目が、目が~~!?」
「セララ・ボルテック・スラアアアアアアアッシュ!!!」
奇しくもフラッシュショットの初手と同じ策であった。
光を捉えるカメラ怪人も、強すぎる光には呑まれ立ち竦むしかない。
その隙をセララは逃さず――雷光迸る一閃で今度こそ怪人を両断した!
「カ、カメェエエエエエエエエエエエエ――!!?」
結果は――爆発四散。
怪人は光の粒子と化して散り、そこから現れた一枚のカードがセララの手に渡る。
すかさず妖精たぬぽんがそれを確認し、歓喜の声をあげた。
「『光』のマジカルカード、回収確認ぽん!」
「やった~! 勝利のポーズ、ブイッ!!」
いつの間にか現実世界へ戻ってきたセララが決めポーズを取ると、上司を失って逃げ惑う戦闘員たちの間からフラッシュが飛び交う。
それは正義の勝利を掲げる魔法少女セララに向けた、守るべき人々の祝福のシャッターだった。