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イラスト詳細

アルプス・ローダーの憂以 了による三周年記念SS

作者 憂以 了
人物 アルプス・ローダー
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

4  

イラストSS

 古人曰く、光陰矢の如し。
 月日が経つのはとても早く、そして二度と戻ってこない――よく知られたその意味の裏には『故に、無為な過ごし方をしてはならない』という戒めが込められている。
 時間というものは有限だ。その果ては締め切りだったり、保証期間だったり、寿命そのものだったりする。
 だからこそ、呆然と過ごすような時間は減らし、有意義な時間を増やしていかなければならない。

 今、ローレットのカウンターでぼーっとしているように見えるピンク髪の娘――アルプス・ローダーだって、実は頭の中で有意義な時間を過ごしていたりするのだ。
 ローレット本格始動3周年を迎えたこの日に、今までの事件を振り返る事で、だ。

「まぁ……濃密でしたね。色んな意味で」
 何となしに天井を見上げながら、ぼそりと漏らす。
 振り返ってみると、色んな敵と戦ってきたものだ。
 十把一絡げの有象無象と呼んでも差支えの無い者共がいれば、その一方で強大な力を誇る猛者もいた。
 中には、正に化け物という言葉すら陳腐と化す輩もいたものだ。
 例えば……

 
[ネオフォボス]提w供)

 ……提供クレジット時に提供の二文字が目の部分に被ってしまった何かが割り込んできた。
 邪魔なので、圧縮ファイルにして記録媒体の片隅にしまっておく事にする。

[NF.lzh]w●)ノシ

 只の記憶データの癖に、小癪にも頻りに存在をアピールしてくるが。『最高難易度っぽい名前だったがそんな事は無かったぜ』という形で済ませておこう。
 もう壊滅してるし。


 さておき、先の話に戻ろう。
 例えば、そう。天義の動乱にて遭遇した初の冠位魔種。『煉獄篇第五冠強欲』ベアトリーチェ・ラ・レーテ。
 強烈無比なネクロマンサーである彼女が展開した暗黒の海と、そこから湧き出る汚泥の兵共の大群は、1年以上が経過する今でも尚、鮮明なビジュアルとして本体の中に記録されている。
 その画像に付随してくる形で、あの黒き海の中を疾駆し、かの冠位に一撃をお見舞いしたあの手応えも思い出す。
 共に駆けた仲間と共に、ベアトリーチェからの怒りを買う程の一撃をお見舞い出来たのは――。

「満足だったか、と言われると……」

 どうだろう。当時の自分としては全力でやれたとは思うが、今の自分からすればNOだ。
 その理由は明白、『今の自分の方が確実に速いから』だ。

 では、その『次』ではどうだったろう?
 海洋王国大号令、その果てに待ち受けていた強大な災厄達。
 それらの中で真っ先に思い出したのは、かの怪鳥。爆炎のルーデリアだった。

 超高速飛翔体であるルーデリアとの戦いは、アルプスからすれば『最速の誇りを賭けた戦い』であったと言えよう。
 その結果は言うまでも無し。今ここで、こうして物思いに耽っていられる事が何よりの証拠だ。
 ……ああ、間違いなく超えた。完膚なきまでに、怪鳥が驚愕に震えながら認める程に。
 あの時、己がボディは光となった。弾丸となり、刃となり、巨躯を打ち据えた。打ち勝った。
 傍から見れば、それは絶賛すべき勝利である。
 ローレット本部からも称賛されたのだから、それは間違いない。



 だが、その『次』を思い出せ。



『煉獄篇第二冠嫉妬』アルバニア。
 そして、『厄災のケテル』たる滅海竜リヴァイアサン
 それは、正真正銘の地獄であった。
 二つの大災厄が肩を並べて立ち塞がった戦場は、ベアトリーチェの時の比では無かったといっても過言では無かろう。
 迫りくる冠位の権能。かの怪鳥すら赤子に思える、滅海竜の壮大極まりない巨躯。
 当然ながら、それらが齎した被害は甚大極まりなかった。
 荒れ狂う海が、降り注ぐ鱗が、艦すら砕く大顎が、眩い閃光が、数多の命を葬り去っていく。

 そのような屍山血河の中で、自分達は全てを懸けた。
 勝率など皆無な状況下で最後まで諦めずに抗い続け。それ故に、砂漠の中から砂金一粒を拾い上げるかのような奇跡を掴む事に成功して。
 それでも尚、勝てるかどうか分からない死闘中の死闘。
 
 その中で、自分はどうであったか。
 かの滅海竜の大顎を閉じる為に放った二撃の事を思い出す。
 一撃では足りず、もう一撃と放った超新星が如き猛撃でも足りず。
 結局は、仲間の追撃を以て漸く、死の竜門を押し戻す事に成功したという事実。

 ……自分の攻撃は無駄であったのか。そう問われれば、NOだ。
 足りなかったか、と問われればYESだ。

 ああ、そうだ。足りない。まだまだ足りない。
 敵は更に強大化していく筈だ。
 絶望の青を越えた先に在った新天地、神威神楽の地で何が起こるかも分からない。
 またどこかで冠位魔種が現れるかもしれないし、リヴァイアサンのような竜種が出てくるかもしれない。
 絶望の青の時のように、それらが手を組む事がまたあるかもしれない。
 場合によっては、それ以上の――。

「その時になって、"また足りなかった"では……済まされないんですよね」

 冠位との戦いでPPPを発動し、散っていった者達の事を思い出す。
 彼女達の命に報いる為にも、全てを無駄にするような結果を招いてはならない。
 決して、『今』で満足してはならない。

 ヒーローとは、無窮の願望を抱くものだ。
 救済、平和、その為の巨悪殲滅。
 世界が在り続ける限り、その願望が永遠に果たされる事は無く。
 それ故に走り続けなければならないのが、ヒーローだ。
 ならば、ヒーローを背に乗せて走る自分も、そうでなければならない。
 最速を求め続けるこの願望は、果たしてそこから来るものなのだろうか。

「……」

 でも、と思う。考えてしまう。
 自分の速度は、いまだに元の世界のそれに届いてすらいない。
 雄大な山脈を越える事すら出来る力は、失われて久しく。
 光と見紛う程の姿は、ほんの一瞬しか発現出来ないでいる。

 それ程までに、『不在証明』という壁は強大過ぎた。
 彼女が有する本来の速さは、今だに世界そのものから否定され続けている。
 
 果たして、その壁を越えられる日は来るのだろうか?
『不在証明』という壁を破壊し、全ての敵を置き去りにする速度を以て厄災を打ち祓う事は叶うのか?

 ――古来より、速度の追求とは『壁』との戦いだ。
 それは構造や燃料の壁だったり、音の壁だったり、断熱圧縮という名の熱の壁だったりする。
 しかし、人類の英知はその壁を砕き、越えてきた。
 少なくとも、自分の世界ではそうだった筈だ。

 ならば、この世界でも。
 頑張れば、努力し続ければ、『不在証明』という壁を打ち壊して――。

「……それは、何時?」

 何時成せる?
 成せたとして、それで全ての敵に追い付けるのか?
 成せなかったら?
 成せなかったら、追いつけなくなるのか?
 敵は、時は待ってくれない。
 そう、待ってはくれないのだ。
 時は光より早く、そして不可逆だ。
 どれだけ速く走ろうとも、必ず背から追い付いてくる。
 そして、告げるのだ。


『足りなかったな。やり直しなど効かぬぞ』と。


 反射的に席を立つ。
 CPUが焼け付く寸前の、不快な感覚に見舞われながら。
 そして、パンドラでもある鍵を握りしめ、踵を返して足早に出口へと向かう。

 ――こんな時に取る行動は、人間とさして変わらない。
 走ってこよう。無心に、徹底的に、行ける所まで。
 決着のつかない葛藤を、一時でも忘れられるくらいに。
 そして、また向き合えるようになるまで。

 アクセルを吹かして、何処までも。

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