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イラスト詳細

郷田 貴道の七草大葉による三周年記念SS

作者 七草大葉
人物 郷田 貴道
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

4 

イラストSS

●AM6:00
ㅤ──郷田貴道(p3p000401)の朝は早い。

ㅤ日が昇るより早く目を覚ました郷田は、日課であるトレーニングを始める。

ㅤそれは単純なロードワーク。
ㅤしかして、それは常人には到達できない領域へと昇華されていた。

ㅤまずもって、郷田の住処は山奥。人の出入りするには危険すぎる土地。
ㅤ空気は薄く、気圧は低い。
ㅤ野生動物は凶暴を極め、その寝首を掻くことを虎視眈々と狙っている。

ㅤだが、行動には移さない。移せない。
ㅤそれは、既に君臨しているから。
ㅤ山を統べる王の座に郷田が腰掛ける存在だからである。

ㅤその後、軽く50km程走った郷田は、とある湖へとやってきた。ここで汗を流し、次のトレーニングまでの休息を行うのだろう。

ㅤ郷田が湖の水面に足を付け──

ㅤそのまま駆けた。

ㅤそう、これは休息などでは無い。そも、これまでのロードワークは言わばウォームアップ。郷田はまだ少しも疲労していないのだ。

ㅤ右足が水面より下の世界へ移行する前に左足が水面を弾き、左足が落ちるその前に右足が宙を舞う。

ㅤ水面を走るという行為自体は、珍しくはあるものの、バジリスクやカイツブリを初めとした自然界の生物にも可能な行為である。

ㅤで、あるならば、郷田がそれを行えないという道理は存在しない。

ㅤそのまま、湖の上を軽く50周程走った所で、ようやく人心地……つかない。

ㅤ跳躍。
ㅤ郷田の詰まりに詰まった筋肉をこれでもかという程凝縮し、解放。

ㅤ優に10メートルは飛翔した郷田。あとは落ちるのみである。

ㅤだが、郷田はそれに抗おうとする。しかし、その両足は、空を搔いた。

ㅤ──否。

ㅤそれは空を踏みしめた。
ㅤ落ちるはずの右足は、宙を蹴った。
ㅤ続かぬはずの左足は、世界を掴んだ。

ㅤ郷田は今、空を駆けた。



ㅤ尚、いつも通りのトレーニングである。

●AM8:00

ㅤシャワーの後、朝食。
ㅤバランスの取れた食事こそが健やかな身体を作る最大の要因である。

ㅤ食事が終わればトレーニング再開だ。

ㅤ想像を絶する筋肉トレーニングはこの際省こう。なんか持ち上げてるバーベルに10トンとかなんとか書かれてた気がするけど怖いから見なかったことにしよう。

「シッ、シッ」

ㅤということで、現在行われているのはシャドーボクシングである。

ㅤ一度拳が突き出される度に、パンッ、パンッと真空でも発生しているんじゃないかという音が響く。

ㅤ速すぎる拳は、もはや残像すらも見えない、というか郷田が何処にいるかすら分からない。そこかしこで響く衝撃波と気化した汗だけが、郷田の存在を証明するエビデンスである。

ㅤそして、これがラスト。

ㅤ衝撃を吸収しやすい特注のサンドバッグと対峙する郷田。

ㅤ──その一撃に、二の矢は要らない。

ㅤ轟音と共に放たれる右ストレートは、サンドバッグの芯を的確に捉えた。

ㅤしん、と辺りが静寂に包まれる。

ㅤ世界が凍りついた様な程の静けさ。その中で、サンドバッグだけが明確な熱量の元、その体表を赤く染め上げていた。

ㅤ終わりは唐突に訪れる。

ㅤブ、ブブブ、とサンドバッグが振動したかと思うと、突如として爆発、粉砕した。

ㅤその破片を空中で全て拾い上げ、ゴミ袋に詰め込んだところで、朝のトレーニングの終了だ。



ㅤ繰り返すが、いつも通りのトレーニングである。

●PM12:00

ㅤ昼食を腹に収めた郷田は、とある滝へとやって来ていた。

ㅤ見上げれば、その瀑布は雲より尚上へと伸びており、その頂点は視認が不可能な程に高く、高く聳えたっていた。

ㅤ山の麓に住む者曰く、「天外瀑布」。天の国より落ちるとされるその滝に一度身体を当てれば、抜け出すことは不可能であるという。

ㅤそんな滝を目の前にする郷田。おもむろに服を脱ぎ、その研ぎ澄まされた肉体美を世界に見せつける。
ㅤそしてゴーグルを装備すると、滝に飛び込んだ。

ㅤそれは滝行。自らの身体を滝に打ち付け、その衝撃に耐えることで精神を鍛えるとされるそれである。

ㅤ手頃な岩の上に胡座をかき、手を合わせ、目を閉じる郷田。

ㅤドドドド、というかドゴゴゴゴ、と爆発でもしてるのかという爆音で落ちてくる質量の塊に身を委ねる郷田。

ㅤ常人なら2秒と持たないであろうその衝撃に、耐え続けることおよそ3時間。

ㅤもはや苦行を通り越して地獄とも呼べるほどの精神鍛錬を自身へと施した郷田。

ㅤもちろん、これだけでは終わらない。

ㅤ落ち続ける滝をものともせず、スク、と立ち上がる郷田。

ㅤそしてそのまま手を上に掲げ──跳んだ。

ㅤ世界を90度傾ければ、それは水泳でいうところの「けのび」によく似た行為だった。
ㅤしかしその勢いたるや、25メートルプールならば貫通するであろう程の威力を持っている。

ㅤその結果が、これだ。

ㅤ──滝が、二つに割れる。

ㅤありうべからざる奇跡と共に、その地に恵みの雨が降る。

ㅤそれは有り体にいえば、水飛沫。しかし、その大規模な飛沫は、局所的なスコールと呼んで偽りなきものであった。

ㅤその滝の中心は、言わずもがな郷田である。

ㅤクロールを行いながら滝を駆け登る郷田。
ㅤそれはさながら鯉の滝登り。いや、龍の舞いか。

ㅤもはや神々しさすらも感じるその天上りは、さながら見るものを魅了する芸術作品の様だった。

ㅤ惜しむらくは、その光景を拝むものが誰一人としていなかったことだろう。

ㅤそして、郷田は物理法則を支配する。

ㅤより一層スピードを増す郷田のクロールは、やがて滝の頂点へと到達した。

ㅤだが、終わらない。

ㅤそのまま郷田はクロールの動きを繰り返す。

ㅤ大気を掻き分け、気流を味方に付ける。

ㅤなんのことは無い。郷田は、空を泳いでいたのだ。

ㅤ尋常ではない、超常であるからこそ可能な、重力の否定。

ㅤ郷田は物凄かった。それだけの事であった。



ㅤ何度も言うが、これは毎日のように行われるトレーニングである。

●PM17:00

ㅤ疲労した身体を労るようにしっかりと夕食を摂った郷田は、とある場所への道を走っていた。

ㅤ道中、奈落の底をわざわざ垂直に駆け降りて駆け登ったり、なんとなく両手指一本だけで走ったり、モンスターの群れを捻ったりしながら道無き道を突き進む。

ㅤ果たして、そこにあったのは秘湯──温泉であった。

ㅤここは、郷田が文字通り手ずから掘り出し、そして整備した、郷田のとっておきの温泉である。

ㅤそうそうに服を脱ぎ、湯船に足を付ける。

ㅤ疲れが溶けだすとはまさにこの事だろう。

「あ゛ぁぁ……」

 肩まで湯船に浸かると、自然に声が出る。意図して出したものでは無い、自然な声が。

ㅤ用意していた酒をお盆に乗せ、湯船に浮かべる。

ㅤなんとも風流な光景が広がった。

ㅤ月をツマミに酒を飲む。

ㅤ有り体な一杯ではあったが、それでもその一杯は格別なものであったという。



ㅤ──これが、郷田 貴道のなんでもない一日の話だ。

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