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イラスト詳細

カイル・フォン・フェイティスのコウガネによる三周年記念SS

作者 コウガネ
人物 カイル・フォン・フェイティス
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

2  

イラストSS

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 太陽が西へと沈もうとする頃合い、つまりは夕暮れ時。
 『放蕩王』フォルデルマン三世が治める|幻想王国《レガド・イルシオン》のどこかにある森林地帯、その内部で今日もまた、人と魔物の殺し合いが起きていた。
 そう、「今日もまた」だ。
 この|無辜なる混沌《フーリッシュ・ケイオス》において、命を賭けた殺し合いなど然程珍しく無い。
 若くして旅に出た少年少女から、歴戦の老兵に至るまで。
 その相手が人か魔物かはさて置いて、戦闘を原因として死ぬ事例は決して少なくはない。
 無事に人里へ辿り着けたとして、それまでに死に掛けることも多々あるだろう。

 しかし、だ。
 もしもーーそんな、誰かが死に掛けるような窮地を目の前にして。
 それでも、と。
 己が傷付く事を顧みずに立ち上がっていく者がいたのならーーその人物を果たしてなんと呼ぶのだろうか?

⚫︎
「ふっーー!」
 長く息を吐き、体勢を整える。
 片腕はもう上がらないし、脚だってもうくたくただ。体力が無くなって来ている。
 あの|化け物《虎型魔物》は態々目の前でこちらの隙を伺っているようだが、こちらだって手前から逃げる隙を伺っていやがるんだよ、この虎野郎。
 そう心中で悪態を吐きながら、それでも思考は止めない。
 ここは森林、彼奴の縄張りだからだ。
 俺のような人間種の旅人よりも、もっとずっと知り尽くしている。
 出来る限り森の奥へ入り込みすぎないように立ち回っていたが、それも時間の問題だろう。
 とは言え、此処で野垂れ死になんてしたくはない。
 まだまだやりたい事が沢山あるのだ。
 だからーー
「さっさと掛かって来やがれ、畜生がよ!」
 目一杯声を張り上げて、片手持ちにした長剣を構えてやる。
 来るなら来い、殺してやる!
「Guuuuaaa!!」
 そして、ひと吠えした奴が此方へと飛び掛かったその瞬間ーー。
 『青色の何か』が視界の端から飛び込んで来て、魔物の攻撃を止めていた。
 俺の眼では分からなかったが、ガキリと音を立てていたのは果たして武器だったのか、それとも別の何かか。
 だが、その『青色の何か』が俺を助けてくれたのはきっと間違い無かったのだろう。
「っ、大丈夫ですか!? ……すみませんが、そこで待っていてください……!」
 『青色の何か』ーー青髪の、立派な鎧と外套を纏った青年だったーーがどうにか声を張り上げてから、魔物に蹴りを叩き込みでもしたのか強引に引き剥がす。
 こんな所まで態々来るとは旅の騎士か何かなのだろうかとそこまで考えてから、慌てて周囲を見渡す。
 虎型の魔物が一体に、乱入してきた青い騎士。
 そしてついでにお荷物の俺。
 だが、他に聞き付けてきた魔物はいないらしい。不幸中の幸いと思えば良いのだろうか。
 ……しかしだ。
 それなりに旅を続けてきたからこそ、分かる。
 あの騎士と魔物とではほぼ互角の実力と言ったところだろう。
 良くて相討ち、悪くてどちらかの部位欠損。
 自然と、そんな風に見立てていた。

 そして少しの睨み合いの後にーー騎士と魔物がぶつかり合う。
「はぁぁぁぁッ!」
 騎士が両手剣を構えて、上段から振り下ろす。
 剛、と空気を割り裂いたその一閃は、しかし空振るのみに留まって。
 ならば当たるまで攻撃を繰り返すと言わんばかりに、騎士の動きが激しさを増すがーーその分、隙も少しずつ大きくなっていった。
 そうして騎士の動きに隙が出来たのを見逃さず、魔物が跳び掛かる。
 この鋭い牙をお前の首筋に突き立ててやろうではないかとでも言わんばかりの、両脚を前に突き出しての大跳躍。
 けれども。
 翼持たぬ身で空を舞ったのならーーその軌道は変えられない。
 その事を知ってか知らずか、奴は牙を剥き。
 そして騎士が機を見い出して。
「……今だ!」
 逆袈裟斬りの形で両手剣が振り抜かれ、いざ魔物を両断せんと刃が奔る。
 ぞぶりと毛皮を斬り裂き、魔物の身体に刀身が食い込んだものの《《何故だか》》それ以上は刃を強く押し込めていない。
 ーーそうだ。
 あの手の魔物は、筋肉が異様に硬い部位とそうでない柔らかい部位があるんだったか。
 チキュウとやらから来た旅人に肉を切らせて骨を断つというコトワザを聞いたことがあるが、あれも似たようなモノなのだろう。
「なぁ、ッ!?」
 事態に騎士が驚く暇も無く、大口を開けた魔物がそのまま騎士の頭を噛み砕こうと踠くが、騎士が剣を無理矢理引き抜きその場から一旦下がった事で危機を免れた。
 一瞬の攻防、そして再度の睨み合い。
 それはレベルの高さとか言うよりも、どうやってこちらの殺意をぶつけて敵の攻撃を回避するかというものが近しいだろうか。
 そうして少しずつ傷付きながら戦って、ボロボロになってもどうにか勝つ。
 人と魔物の戦いは往々にしてそうなるものだがーー今回ばかりは、事情が少し違うだろうと俺は思う。
 何せ騎士が体勢を立て直したかと思えば、直ぐに魔物へ向かって行ったのだ。
 焦っているようにも見えるが、その姿勢はまるで傷付く事を顧みていないかのようで危なっかしい。
「おぉおおおおッ!」
 ーーそうして、敵の身体が斬り裂けないという事など気にしてなるものかとでも言った風に騎士が吼え、突撃し。
「GuuuAaaaa!!」
 奴もまた、雄叫びを上げて騎士を迎え撃つ。

 そして、騎士と魔物は二度目の攻防を繰り広げた。
 魔物が振るう鋭利な爪牙は騎士の両手剣よりも|間合い《リーチ》が短いとは言えど、小回りと素早さは間違いなく上。
 故にその速さを生かして騎士の周りを駆けながら足元を執拗に攻撃するものの、ある程度は鎧に阻まれるか、それ以外は浅い傷にしかなっていない。
 騎士もどうにか攻撃を当てようとしているが、こちらは魔物の速さに追い付けておらず、両者に決定打は無かった。
 それを嫌ったのか、なんなのか。
 魔物が木々の間に隠れ、潜みーー微かな音を立てて、騎士の隙を窺うように行動し始めて。
「何処だ、何処に居る……!」
 そしていよいよ騎士の焦りが頂点に達しようとした、その時。
「ーーSyaAaaa」
 一呼吸。一拍。
 そうした僅かな間隙を見逃さず、騎士の死角から魔物が再びの飛び掛かり攻撃を仕掛けて。
「危ない、後ろだ……!」
 樹に寄り掛かって座り込んだままの俺が、どうにか騎士に警告を飛ばす。
「そこ、かっ! ゼァァァァッ!!」
 そして警告を受けた騎士が真後ろに振り向き、魔物の攻撃へ対応しーー。
 我武者羅に、真っ直ぐに。
 一歩踏み込み全力で振り抜いたその剣は、袈裟懸けに魔物の頭蓋を割った!
 するとぐちゃり、と赤い肉やら赤黒い液体が返り血として騎士に降り掛かった。
 白い鎧に赤黒いナニカがへばり付く様は非常に勿体無くも感じたが、それはそれとして。
 魔物の遺体や自分の様子よりも気にする事があるとばかりに彼は剣を収め、此方へ駆け足で寄って来た。
「大丈夫ですか!?」
「ああ。ちょっと、疲れ過ぎてな……。それより、加勢してくれて有難う。助かった」
 そう俺が声を掛ければ彼はホッとしたように微笑んで。
 その少し後には慌てたように自分の鞄を弄り、包帯だのなんだのを取り出してこう言った。
「傷とか有りますか!? あるなら俺が治療します!」
 その言葉に、俺は少し驚愕してーー快諾した。
 しかし彼自身も傷付いているだろうに、その様はなんとも必死だった。
 けれどもその心には、きっと。
 誰かを助ける為に自分の犠牲すら厭わないーー。
 そんな、蛮勇とも取れる想いがあるのだろうかと、その時の俺は思ったのだ。
 ……きっとこいつは、大成するかもしれないな!

 抜粋・冒険家インディの旅日記より

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