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イラスト詳細

クラウス・シユウル・ストレインの馬車猪による三周年記念SS

作者 馬車猪
人物 クラウス・シユウル・ストレイン
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

4  

イラストSS

●遺跡争奪戦
 鮮烈な陽光が荒野を照らす。
 地下生活に適応したクラウス・シユウル・ストレインにとって、この環境は拷問に等しい。
 濃いサングラスの位置を直す。
 日除けのフードが汗を吸い込み、蝙蝠を思わせる大きな耳を上から押さえつけている。
「あれか」
 枯れた土地にある石造の遺跡。
 記録が散逸し名前も忘れられた宮殿の残骸が、今回の目的地だ。
「見えねぇ……」
 陽炎がいくつも生じて目による偵察を邪魔している。
 風によって時折巻き上げられる砂も厄介で、視界だけでなく耳による偵察も難しい。
「っ」
 全身が総毛立つ。
 ヤマアラシを思わせる肩の毛が反応する。
 が、飛来する脅威の前にはあまりにも無力だった。
 血が乾いた地面にぶちまけられる。
 鮮やかな赤は砂に混じって黒く変色し、その上に日除けの外套がばさりと落ちた。
 宮殿の端、壊れた建材が転がる地面に伏せているR.R.が、戦果を確認せず予め予定していた経路で逃げ出す。
 入り口の偽装が壊れた隠し通路を匍匐前進。
 侵入者が生きていれば使うだろう経路を予測し、それを不意打ちできる窓を目指し階段を駆け上がる。
 第2の狙撃ポイントに到着したときには、血を流しながら這いずった後に力尽きている外套男が……そうしか見えないものがうずくまっていた。
「盗賊か?」
 R.R.が受けたのも調査依頼だ。
 脅威の排除を優先し、金目のものを回収するという点でも同じ。
 依頼人がローレットに嘘を混ぜて依頼したのも同じ。
 違うのは依頼人だけで、イレギュラーズ2人が望んでもいない対決を強いられている。
「悪く思うな」
 R.R.は心臓があるはずの場所を正確に狙う。
 流血を欲している訳でも、相手に恨みがある訳でもない。
 ほんのわずかでも手を抜けば死ぬのは自分自身だと、ほとんど本能的に理解しているのだ。
 外套に弾痕が刻まれ中身が跳ねる。
 肉の体だとしたら動きが異様だ。
 そして、ガス兵器じみた臭気が外套の内側から噴き出した。
 風が吹く。視界が歪む。涙が出るのは精神力では抑えようがない。
「ちょっと待て同業者かよっ!?」
 驚き慌てる声が遠くから響く。
 足音も乱れに乱れ、シュル缶と水食料を囮に逃げた敵が動揺しているよう感じられる。
 R.R.は時間をかけて調査した地形を思い出し、今いるこの場所を狙える位置を計算する。
 足音を抑え、気配を消し、敵の反撃を無効化させるべく移動を開始。だが相手の行動はR.R.の予測を超えていた。
 空気の焼ける臭いがする。
 光の槍としか表現しようのない攻勢のエネルギーが、ろくな足場もないはずの隣の建物から伸びてくる。
 逃げようとしても間に合わない。
 だからR.R.は、渾身の力を込めて包帯を引いた。

●あの世より遠い距離
 クラウスはR.R.の正体に気付いていない。
 依頼を隠密裏に遂行するのが依頼人の意向だ。
 クラウスは目出し帽をかぶり、R.R.は包帯で顔を隠している。
「武器を捨てたら殺さねぇぞ!!」
 我ながら酷いセリフだと思う。
 肩を無理矢理止血し目を血走らせた男にそう言われたなら、クラウスならためらわずに射殺する。
 信じる理由が全く存在しないのだ。
 出身世界から持ち込んだ兵器がうなりをあげる。
 『不在証明』の影響を受けてもなお強力な重狙撃銃が膨大なエネルギーを生み出し1つに束ねる。
 それを導くのがクラウスの腕だ。
 一瞬に満たない時間を数時間にも感じる集中で使い切り、包帯の下が何だろうが破壊する一撃を準備する。
「う」
 意識が加速し間延びした時間の中で、包帯に引かれた銃口がクラウスに向き直る。
 R.R.にとっても無理に無理を重ねた技であり、初撃と比べれば狙いは非常に甘い。
 が、既に負傷したクラウスにとってはかすめるだけで命が危ない。
「そ」
 引き金に触れるのはクラウスが微かに早い。
 光の槍が空間を引き裂き、狙撃に特化したため守りが厚くない胴を焼き尽くそうとR.R.に迫る。
 新たな銃声が響く。
 クラウスが使う遠未来の科学の代わりに神秘と枯れた技術を用いた、ただの鉛玉に理を打ち破る力を持たせた銃撃が光の槍を迎撃する。
「だろぉっ!?」
 光槍の半ばが砕かれ方向性を失う。
 永い時間を経ても健在だった建材を熱したバターの如く溶かし、残りの数分の1がR.R.の包帯を焼いた。
 だが致命傷には遠い。
 光と爆音で五感がほとんど麻痺した状態を苦にもせず、R.R.は柱の陰に隠していたロープを使って隣の建物へ移る。
「クソッ」
 クラウスの傷口が開いた。
 咄嗟に抑えたが鮮血が目出し帽にかかり放置すれば眼球に血が触れかねない。仕方なく帽子を外して顔を出した。
 R.R.の野獣の如き身体能力を鋭い戦闘本能で扱いきる。
 体に刻まれた罅から発せられる焦熱と紅光が気づかれる前に、R.R.は最後の狙撃場所に到達した。既に、五感は回復している。
「畜生っ」
 斜め下にいる敵は焦って騒いでいる。
 血とサングラスで顔はよく分からないが、ダメージの影響が確かにある。
「まさかな」
 致命の一撃を放つ一瞬前、R.R.は少しばかり困惑していた。

●ダブルブッキング
「御同業かよっ」
 著名なイレギュラーズは数多いとはいえ、剣士と比べると狙撃手の数は少ない。
 だから誤解だ、仲良くしようという展開にはならない。
 ここは治安組織どころか住民もいない無人地帯だ。
 殺して埋めれば露見し辛いし、R.R.がどんな信条でどう生きているかも知らないのだ。
「ローレットに喧嘩売る気はねぇぞ俺は!!」
 パンドラ確保のための人材を殺せばローレットがどう反応するかなど、少なくとも自分自身で確かめる気はない。
「依頼失敗かもな!!」
 クラウスは狙撃とは到底いえない精度で、しかし元の世界で何度も行ったことのある破壊を実行した。
 足場が揺れる。
 予想外の振動にR.R.の狙いが狂い、放った銃弾がクラウスの頬の数センチ横を通過する。
 地下世界の住民にとっては建物の頑丈さを感じ取るのは必須技能だ。
 ここまで壊れた建物なら、重狙撃銃の大火力でこんなことも出来る。
 R.R.は崩れゆく宮殿の上で銃を構え直す。
 クラウスは安定した足場を活かしてR.R.に狙いをつける。
 負傷はクラウスの方が重いが次の攻撃は狙いの分クラウスの方が強く、両者相討ちになりかねない状況だった-。
 風が止まる。
 最早サイコロの出目で生死が決まると判断した両者が、銃撃する寸前の状態で止まっている。
「俺はローレットのイレギュラーズだ。ハイ・ルールを破る気はねぇ。アンタはどうだ」
 銃を揺らさぬぎりぎりの音量で、クラウスが囁くようにたずねた。
「その耳、狙撃手のクラウスだな。ローレットへの報告には付き合ってもらうぞ」
「ああ、それで済むなら文句はねぇよ」
 両者狙いをつけたまま、亀が這うような速度で距離をとる。
 そして互いの魔弾の射程から抜け出た瞬間、同時に、慎重に、銃口を下ろした。
「良い腕だ」
「ははっ、アンタは腕はあっても愛想はっ」
 傷口が痛みを発してクラウスを悶絶させる。
「治療費は依頼人に払ってもらえ」
「報酬も、倍額っ、もらうとするよ」
 クラウスは冷や汗を浮かべて苦笑して、手際よく応急手当を済ます。
「血が足りねぇからなんかくれ。シュル缶やるから」
「いらない」
 R.R.は珍しく早口で断言して普通の糧食を押しつける。
「結構いけるんだぜ?」
 夕日が差す遺跡の奥へ、2人の狙撃手が潜っていく。
 無機物モンスターが守護者として待ち受けていたが、2人の歩みを止めることすら出来なかった。

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