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イラスト詳細

ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルクのなちゅいによる三周年記念SS

作者 なちゅい
人物 ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

3  

イラストSS


 幻想の街中を歩く鉄帝軍人、ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)。
 彼女は現状、イレギュラーズと呼ばれる存在となり、ローレットに所属して各地でさらなる活躍を見せ、一目置かれる存在となっていた。
「あっ、マリーさん!」
 幻想で呼びかけられることも増えたマリーことハイデマリーはクールな視線を向け、すました顔で軽く手を振って応える。
 かつては敵対していたことの多かった幻想の民でも、戦場で敵対する存在でなければ、彼女なりに社交的な振る舞いを行う。
「おはようございます」
「………………」
 しかしながら、これが旅人であるとやや苦虫を噛み潰した表情をすることがある。
(また、混乱をもたらす存在が増えてしまったでありますか……)
 無辜なる混沌には今なお他の世界から様々な存在がイレギュラーズとして召喚され続けている。
 彼らは望む望まないに限らず、混沌において新たな火種を生みかねない存在だとハイデマリーは今なお考えている。
 それ故に、今なおこの世界にやってきた異分子……旅人を、ハイデマリーは受け入れられずにいたようだ。

 そのハイデマリーの容姿で特徴的なのはその髪型。
 彼女の金髪右側はショートで長くても肩にかかる程度。左側は結ぶことができるくらいに長く、下ろせば腰から太ももに至るほどの長さだ。
 ハイデマリーがこんなアシンメトリーな髪型としているのにはそれなりの理由がある。


 当時、ハイデマリーは10歳程の幼い身でありながら、鉄帝でも名の知られた帝国軍人であった。
 柔軟な思考力を持ち、幅広い戦略で敵対する者達にほぼ満足な立ち回りをさせぬ作戦を弄し、実戦にあっても主に銃を得意とした戦いで狙い違わぬ狙撃を行うだけでなく、弾幕を張り巡らしての突撃とまさに豪将と言わしめる戦いぶりを見せていた。
 その知略と戦闘力でハイデマリーは鉄帝軍で成り上がり、指揮官を担うまでになっていた。
 ――敵対する相手に、情け容赦など無用であります。
 かつてのハイデマリーは敵対する者には冷酷無比、無慈悲に悉くを殲滅していた。
 ――ようは勝てばいいのであります。勝てば官軍。何を迷うことがありましょう。
 戦場における彼女の考え方は良くも悪くも割り切りを見せていて。
 一般的に非人道的と言われる兵器の利用、捕虜の虐待にまで手を染めることは無かったが、相手が完全に白旗を上げるまではそのギリギリのラインは躊躇なく利用していたハイデマリーである。
 そうして、どんな戦いにおいても連戦連勝を重ねていた彼女であったが……。

 ――あぁ、でも今回は失敗した。
 周囲が炎に包まれる中、ハイデマリーはぼんやりと思う。
 鉄帝民の練度は決して低くはない。ハイデマリーも訓練には自ら立ち合い、直接兵士達に指導も行った。
 それぞれの力は高く、個々の力は決して劣ってはいなかったはずだ。
 統率もハイデマリーはとれていたと考えてはいるが、鉄帝民というのは良くも悪くも『武力を愛好する』国民性がある。
「これは……敵の策であります!」
 ハイデマリー自身が退き時を察していても、一部の隊はそれが相手の策だと考えが至らずに勝利を疑わず前進してしまう。その細かい動きにハイデマリーは対応できなかったのだ。
 前に出すぎた小隊へと放たれる集中砲火。
 勇み足の部下達の行いが裏目に出てしまったのだが、だからと言ってハイデマリーは味方を見捨てることはできず、小隊の前に出て所持する銃砲をありったけ発砲する。
「今のうちに、後退するであります!」
「指揮官殿、申し訳ございません……!」
 部下達は感謝の言葉を告げながらも、退却していく。
 おかげで隊としての損傷は軽微なものに済んだが、ハイデマリー自身は浴びせかけられる爆風によって髪が燃えてしまい、さらに飛んでくる爆発部の破片が頭へと叩きつけられていた。
(あ、うう……)
 どう見ても致命傷であり、動くことすらままならない。
(こ、このままでは……)
 全身血にまみれる彼女が敵に見つかれば捕虜とされるだろうし、その血を嗅ぎ付けて近づいて来た獣に食らいつかれれば一貫の終わりだ。
 小さい体躯の彼女は敵味方とも分からぬ死骸や周囲の草木に紛れ、なんとか戦場から退避する。
「もう、ダメ……」
 気丈に意識を保っていた彼女も限界だったのか、草むらにその小さな体を横たえてしまった。
 
 ぼんやりとした記憶の中、ハイデマリーが見たのは明らかに変と感じる夢だった。
 ――マリー……、あーーん。
「…………?」
 自分と同じくらいの背丈くらい、大きなウサギの耳を思わせるリボンをつけた金髪ショートヘアの少女が自分の口元へと何かを差し出している。
 それは、砂糖をまぶしたドーナツ。戦場にそんなものがあるはずはと思いながらも、彼女はそれを口にする。
「…………」
 いくら噛みしめても味を感じないことから、やっぱり夢だとハイデマリーは確信する。
「ほら、いくよ」
 その少女はドーナツを食べていたハイデマリーの手を取り、何処かへと引っ張っていく。
 …………。
 …………。
「はっ!?」
 ハイデマリーが気づけば、そこは野戦病棟。
 何か夢を見ていたと思ったが、全く記憶にない。
「良かった。目を覚ましたのね」
 声をかけてくれたハイデマリーの姉が安堵する。
 なんでも、彼女の部隊が手を伸ばしていたハイデマリーに気付いて回収したとのだそうだ。

 なんとかハイデマリーは一命を取り留めたものの、身体に残り続ける重い傷を負ってしまう。
 とりわけ、頭部の傷はかなりひどく、脳にまで重大なダメージが及んでしまっていた。
 それによって、ハイデマリーの戦闘力や知略のほとんどが失われ、軍内での地位を失う羽目となってしまう。
 しかしながら、その後ハイデマリーはイレギュラーズとして召喚され、知略はギフト「次元多重思考」によって補うことができるようになった。
 ただ、失われた戦闘力はまた戦いを積み重ねて、向上させるしかない。
「これも一種の混沌肯定でありますかな」
 思わず皮肉を口にする彼女へと、うさみみをつけたショートの金髪少女が駆けつけてくる。
「マリー!」
 彼女……セララ(p3p000273)は異世界の魔法少女らしく、ハイデマリーが厄介と感じる旅人の1人。ドーナツが大好物らしく、この少女はいつも美味しそうに食べている。
「…………何の用でありますか」
 ハイデマリーが怪訝そうに振り返ると、セララは笑顔でドーナツを差し出してきた。
「…………?」
 そこで、ハイデマリーは何か既視感を覚えて。
「どうしたんの?」
「いや、前にもこんなことがあった気が……」
「ドーナツをどうぞ。美味しいよ?」
 ともあれ、ドーナツをと改めてセララが差し出すと、ハイデマリーは徐にそれを口にした。
 まぶした砂糖はほんのり甘い。
 今度はちゃんと味がすると、何気なく感じて。
「……今度は?」
 首を傾げるハイデマリーだが、前回のことを思い出せない。
「マリー!」
 そして、セララが手を差し伸べると、またもハイデマリーはデジャヴを感じる。
 この手は……離したらいけない。
 直感でハイデマリーは無意識に彼女の手をつかんで。
「仕方ない……。少しだけでありますよ」
「よし、行こ!」
 ハイデマリーはそのままうさみみ魔法少女へと連れられ、幻想の雑踏の中へと向かっていったのだった。

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