イラスト詳細
1人酒
1人酒
イラストSS
シャイネン・ナハトの街は喧騒に溢れていた。
光と音楽と人の声。
浮かれ騒ぐ人々の間を通り抜け、ヴェッラはバーの扉をくぐった。
それほど厚くはないのに、扉を閉めるとぴたりと外のざわめきが断ち切られる。
さりげなくもきっぱりとした線引き。ヴェッラがこの場所を気に入っている理由の1つだ。
ヴェッラがカウンターに腰かけても、バーテンダーはいらっしゃいませと声をかけたきり、何も話しかけてこない。かといって、『いつもの』が出てくることもない。
注文したいときに、呑みたいと思ったものを。
ここに来るのはしばらくぶりだが、ヴェッラのことをバーテンダーはしっかりと記憶しているとみえる。
聖女と悪魔が描かれた小さな絵に目を留めたあと、ヴェッラは赤ワインを注文した。
シャイネン・ナハトの夜。
異国風のドレスの胸元はティアドロップカット。前腕部はエレガントな黒のレースの手袋に覆われて。
ひとつに高く結んだ長い黒髪を留めるのは、ボロボロの黒いマフラー。そこに添えた金と銀の髪飾りが抑えた照明を弾き輝く。
ドレスを押し上げる豊かな胸を支えるように左腕を渡し、右手でグラスを揺らせば蠱惑の赤が揺れる。
見つめるヴェッラの赤い目は揺れはしない。ただ面白そうな色を帯びるのみ。
「良い夜じゃな」
「ええ、実に」
ヴェッラはバーテンダーのいらえに微笑のみを返すと、グラスから立ち上る薫りを聞くようにゆっくりと目を閉じた。
※担当GM『月舘 ゆき乃』