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夕凪 こるりの二条による3人ピンナップクリスマス2019(横)
イラストSS
――以下は夕凪こるりの『強めの幻覚』なのである。
輝かんばかりの、この夜に。
カヌレ・ジェラート・コンテュール。コンテュール家に生を受けてから早くも10年。
10歳の年の差がある兄は毎日公務に大忙しだ。
海洋貴族の名門コンテュールに生まれたからにはカヌレも教育の日々である。やれ、淑女に必要な知識とは何か。ダンスに作法、将来はどこかの貴族に嫁ぐのならば女主人として持ち得るべき教育も……そう考えれば、心休まる暇もなく大好きな兄と過ごす時間だってないのだ。
幼い頃から年の離れた兄の後ろを雛のようについて回っていたカヌレは最近の兄にはちょっぴり不服。
父母の名代としてその才を発揮する兄は連日連夜遅くまで大忙しなのだから。
(お兄様ったら……今日はカヌレに絵本を読んでくださる約束だったでしょう)
頬を膨らませてカヌレはテディベアを抱き締める。8つの時に兄が悩み抜いてプレゼントしてくれたそれは兄のお気に入りの紅色の羽が飾りとして付けられている。
誰も彼もが幸福をその胸に宿すシャイネン・ナハトの夜だけでも兄と共にディナーを楽しんで、眠るまで話をしたかったカヌレにとって母が「ソルベは忙しくってディナーには間に合いませんのね」という言葉が絶望の響きを宿して聞こえたのだ。
(お兄様ったら……カヌレとの約束を破るだなんて酷い方)
頬を膨らませる。仕方がない事だと言うのはカヌレだって分かっている。厭という程に母やばあやが言っていたのだ。
お兄様は貴族として立派に頑張っている、と。
自慢の兄が貴族として前線に立ちコンテュール家の当主になる日も近いと噂されるのはカヌレだって気分が悪い訳がない。けれど、まだまだ兄とは一緒に居たいのだ。
お兄様のばぁかと小さく呟いてベッドの中へと潜り込んだ。
暫くそうしていただろうか、コンコンと控えめなノックの音が聞こえカヌレは拗ねた声音で「どうぞ」と返す。
「……カヌレ?」
ゆっくりと、伺う様な兄の声音が聞こえてカヌレはベッドから飛び起きた。
「お兄様! もうお仕事は終わりましたの? カヌレとのお約束は覚えて居てくださいましたの?」
テディベアを抱えたまま起き上がったカヌレにソルベは大きく頷いた。
カヌレのお気に入りの絵本を手に今日は約束を護るために急いで仕事を終わらせてきたのだそうだ。
「ふふ、お兄様ったら。来てくれないと思ってましたのよ? カヌレ、とっても寂しくって――」
甘える妹にソルベは嬉しそうに目を細めた。シャイネン・ナハトに妹が求めたプレゼントが自分と過ごす時間というだけで嬉しくなる。
「さあ、絵本を読もうか。この輝く夜が終わらないうちにね?」
※担当『夏あかね』